第18章「迫り来る選択」その12


「失礼します、横山先生はいらっしゃいますか?」


職員室に入った僕は、横山先生を見つけることが出来たので、急ぎ足で先生のところに向かった。


「羽塚くん、どうしたの?」


先生は驚いた様子で、僕の顔を見てきた。


そのせいで自分の悩みを言うのをためらってしまった。


でも、言わなければここに来た意味を失ってしまう。


「横山先生、歴史を学ぶって意味があるんですか?」


僕がそう聞くとさっきよりも驚いた顔をして、まゆをひそめている。


「ふーん、羽塚くんはずいぶん難しいこと考えてるんだね。


まあそろそろ文理選択の時期だから悩むよね」


「ちょっと、面談室で話そうか」


横山先生はそう提案して、一緒に面談室に向かった。


黒いソファに木目の見える壁が印象的な殺風景な部屋だ。


座ると、ふと横山先生のパンストをいた足を見てしまった。


興奮こうふんよりも緊張のせいで、まともに直視できなかった。


「先生は何で歴史を学びたいと思ったんですか?」


自分の足元を見ながら、僕は僕の悩みから遠のいた質問をした。


「そうだねぇ。私は他人が知りたかったから」


「というと?」


「歴史はただの過去じゃなくてさ。


人の意思や考え、葛藤、苦しみや怒りとかたくさんの感情が交錯こうさくしているのが


過去の様々な史実や記録から見えてくる」


すごく良いことを言っているのは分かるが、僕が知りたかった答えじゃない。


「でもそれって将来の役に立つんですかね…」


少し反抗的に聞いてしまった。悪いことをしたかな。


「まあ立たないかもね」


「え?」


案外あんがいあっさりと認めたことに僕は驚いた。


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