第18章「迫り来る選択」その13
「歴史は理系と違って、何かを生み出すことはできないから、仕事には結びつけにくいのは確かだよ。
実質私も史学者になりたかったけど、大学院の勉強は難しくてね」
正直、大学院がどんな勉強をするか分からないが、頭のいい人間しか入れないとは聞いている。
「将来に悩んでいる時に、お世話になっている教授に『横山は教師に向いているかも』って言われて、教師になった感じかな」
「つまり教師になりたくてなったわけじゃないんですか?」
「そうねぇ、私は友だちが少ないから、人に何かを教えるって怖くて仕方がなかったね」
「…」
「…」
しばらく沈黙が続いた。
「…僕は…試すのが怖いんです」
上手く言葉にできる気がしなかった。
「歴史は好きです、でも分かっているんです。
これを突き詰めることなんかできないって。史学者になんかなれないって。
それなら就職に有利な理系に進んで、親や大人たちを安心させようって。
でもそれって自分に嘘をついているようで…」
「どっちでもいいんじゃない?」
横山先生は笑っている。
予想外の答えに僕は真っ白になった。
「どっちがいいかなんて誰にも分からないと思うよ。
羽塚くんの好きなことも尊重すべきだし、そうやって将来のことも考えて選択することも大切だし。
私なんて二十六歳まで大学院で勉強して教師になったから、大学を卒業して就職した人に比べれば、四年も無駄にしているからね。
女で大学院に行って、その時はフリーターみたいな生活だったから親や同級生にはよく心配されたね」
でもそんな言葉を発した先生は、後悔しているようには見えなかった。
「でも皆みたいに大学を卒業して教職に就いた人生を想像しても、それは私じゃないんだよ」
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