第16章「作られた囲い」その12


話が進み過ぎて返答に困った。


平木だって受け入れた、本来なら僕だって入るべきなのに。


「えっと…考えておくよ」


そう言うと、東海あずみは僕を睨みつけた。


「あなたは選ばれたんです。


それなのに、なぜその権利を放棄しようとするんですか?」


選ばれた?何にだ?誰にだ?


僕は不幸にもこの世界の秘密を知ってしまったあわれな高校生だ。


力も才能もないくせに他人の悩みに片足を突っ込んだ結果がこれだ。


自分の無力さを知って、でもどうすればいいか分からなくて、誰に相談すればいいのかも分からない。


今日だってそうだ。


僕がただ追いかけっこしている間にも、平木は誰かの悩みに触れていた。


もう以前の彼女とは違う。


僕という杖が無くても一人で立ち上がることができる。


それを手放しに喜べない自分が嫌いで吐きそうになる。


東海はポケットから『月』のタロットカードを取りだして僕に渡した。


「では私は先生に部活の申請書を貰ってきます」


「じゃあ私も行くわ」


僕がずっと暗い顔しているのに気を遣ったんだろう。


二人は目を合わすこともなく、はやばやと去っていった。


誰もいなくなった屋上は風の音だけを拾って、虚しさと寂しさを連れていくことはなかった。


今すぐにでも教室に戻りたかったが、今二人にばったり会うのは気が引けたので、


誰が誰かも分からないままグラウンドにいる群衆をボーっと見ていた。



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