第16章「作られた囲い」その10




グランドを見ると、たくさんの人がいて誰もこちらには気づいていなかった。


彼女はフェンスに手をかけて、眼鏡とフェンスが当たるんじゃないかと思うほど近づいている。


「ごめんなさい」


目を合わすことをなく僕に謝った。


「それって何に対して謝っているの?」


「約束を破ってしまって。それと、あなたを頼らなくて」


いざ言葉にされると、辛いものを感じる。


自分の無力さは自分が一番よく知っているつもりだったが、改めて突きつけられるとやっぱり心がキューと絞られたような窮屈感を覚えた。


「ただ証明したかったの、私も力になれるって」


彼女の目が僕のそのものと合った。


真っ直ぐ見つめて、僕の視線を逃すことない、レンズ越しの眼光は何かを語りかけているようだった。


励ますべきなのか、気にしていないよと気を遣うべきなのか、よくわからない。


「彼女らに『悩み部屋』をどう説明すればいい?」


だから話をらすことにした。


でも言った後に後悔がはちきれんばかりに膨れ上がって、赤い下唇を少し噛んでしまった。


「別に聞かれない限りは言わなくていいんじゃないかしら?


真実を知る覚悟のない人に真実を伝えることは残酷でしかないわ」


それは僕に対する言葉のように思える。


ただ「普通」から離れたかった僕は何の覚悟もないまま、君に関わってこの世界の真実に戸惑い、そして振り回された。




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