第15章「世界に関わる者」その13


それは中学からの同級生、文田ふみただった。


相変わらず目の下のくまとその半目まで開かれたひとみには、


この世の全てに飽きたようなけだるさと人の裏を見通すような鋭さを感じる。


「久しぶりだな、文田」


「そうだね。夏休み以来かな」


「聞きたいことがあるんだけど、今日、美術室の備品で無くなったものはないか?」


「どういうこと?」


まぁそりゃそうか、先に事情を説明した方がいいか。


「実は文化祭の各クラスの備品を盗む、変な奴が現れてさ。今ちょうど、その犯人を捕まえたがっている知り合いの手伝いをしてるわけ」


「へぇ、そんな怪盗キ〇ドみたいな奴がいるんだね~。面白そうじゃない」


予想以上に食いついていることに驚いた。


冴えない男子高校生の空想だと思うのが普通なんだろうに。


「そういえば、さっき先輩のパレットが無くなったって言ってたけど、もしかしたらそれかもね」


今度はパレットか。それにしてもずいぶん早い時間帯から盗んでいるな。


まだ文化祭が始まって三時間足らずだというのに、それか前日から盗っていた可能性もあるか。


詳しい状況を聞きたかったが、どうやら今の美術室には文田しかいないようで、彼女も詳細を知っているようではなかった。


「ありがとう。また詳しいこと分かったら教えてくれるかな?」


「うん、いいよ。なら連絡先交換した方がいいんじゃない?」


そういえば、僕は文田と話すことになったのは高校生になってからだった。


中学の時は、保健室登校をする女子として触れてはいけない存在だと思い込んでいた。


「そうだね」


僕はポケットから携帯を取り出して、文田と連絡先を交換した。


「ありがとう。それじゃあ」


用は済んだのでお礼を言って帰ろうとすると、文田は僕の肩をつかんだ。


「羽塚、美術部入らない?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る