第12章「冷めた花火」その11


おそらく掃除をすることが基本的に良いこととされているからだと思う。


部屋をキレイにしているのだから、


多少うるさいことは仕方がないと割り切れるのだろう。



でもそれなら僕は平木の行動を割り切ることができないのだろう。


気になっているのに、彼女の言うとおりに動けない。


自分の不快を押し殺してでも彼女の行動に従うべきなのか、


でもそれは平木と対等な立場で接することを否定することになる。


自分の意思が大切な人と違っていた場合、どうすればいいだろう?


一般的に他人を尊重する、他人に譲ることは素晴らしいことだと言われている。



僕も「優しさ」とは自分の意思を押し殺してでも、そうすることだと思う。


それとは違って、


ヒーローは自分の身体や命を犠牲することはあっても、


自分の意思や考えを押し殺すことはない。



フィクションにいない僕らは、自分の身体や命を犠牲にすることはないが、


自分の意思を犠牲しなきゃいけない場面はいくつもある。


これが「優しさ」であり、でもそれは対等な関係を拒むことに、


つながるんじゃないかと思ってしまう。


掃除機で髪の毛を吸った時、


自分の髪がただのゴミに変わっていたのに、


部屋がキレイになったのを理由に喜んでしまった自分がいる。

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