第12章「冷めた花火」その10


「じゃあ、ここで」



いつもの十字路で平木は別れることを告げた。



「ああ、うん」



「今日は楽しかった、ありがとう」


軽く手を振って、平木は街灯の点いた夜道に消えていった。


結局、僕は彼女が言った「世界の秘密」とやらを知れずに、


家に帰り、自分のベッドでスヤスヤと眠ることができた。




目が覚めて枕を見ると、髪の毛がついていた。


不条理だなと、ふと思った。


フィクションの世界なら、髪の毛なんて落ちることは滅多にないし、


仮にあったとしてもそんな場面はカットされている。


その人物にとって面倒な場面は飛ばすことができるのが、


フィクションの素晴らしいところだ。


しかし現実は違う、そんなスキップは絶対にできない。



歯は絶対に一日一回は磨いておかないと、口の中は気持ち悪いし、


すね毛は女の子でも生える(妹がすね毛処理するのを一昨日見てしまった)。


僕はこの後、部屋に掃除機をかけなくてはいけない。


そういえば、掃除機の音を騒音という人間はあまりいないよな。


あれだけうるさい音なのに、ストレスを感じたということを聞いたことが無い。


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