第12章「冷めた花火」その9


それから僕は背中に嫌な汗を感じたまま、花火を見ていた。


平木はさっきよりも僕と目を合わせることが少なくなった気がする。


「実は私の悩みは解決したわけじゃないの」


西山の言葉をふと思い出した。


それと同時に自分が矛盾した感情も思い出した。


僕は特別になりたかったんじゃなかったのか?



学校と家の往復を繰り返す高校生活を、


この退屈で簡素でつまらないこの人生を、


変えたかったんじゃないのか?


変わったはずなんだ。


平木といた屋上での出来事は、世の中の理をすべて覆すほど、


強大で華々しいほどの衝撃だった。


僕はそれを少なからず望んでいた、望んでいたはずなのに。


今は平木と平々凡々な日常を送りたいと思っている。



西山の言う通りだ。


僕はヒーローになんてなれないんだ。


可哀想な女の子を見ても、


ただ自分の不甲斐なさを目の当たりにする哀れな高校生男子だ。


だからもうこれ以上、僕を巻き込まないでくれ。


責任のない退屈な人生で愚痴を吐きながら、生きていたい。



「そろそろ帰らない?」


あれだけ楽しくしていたのに、自分から言い出すとは思わなかった。


「ああ、そうだね」


そのせいか、返事がおぼつかない風になってしまった。


祭りの終わりを見届けることもなく、僕らは河川敷を後にした。


川に映った屋台の明かりは、たたらを踏むように歩かせた。


すっかり日が沈んだ帰り道の中、僕は平木と話すことが思いつかなった。



別に険悪な雰囲気というわけではない。


高校生になってたくさんの単語を覚えたのに、



ただただ言葉が思いつかない。

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