第12章「冷めた花火」その5
「何かおかしかった?」
問うと、平木はこちらを見て、
「なんでも」
いつになく楽しそうに言葉を発した。
何に笑ったのか、考察していると僕らは河川敷に着いた。
向かっている道中は他人は見かけなかったが、
そこには祭りにふさわしいくらい大勢の人がいた。
「すごい人の数だなぁ。平木、大丈夫か?」
「ええ、ちゃんと胃薬を飲んできたから」
平木はそう言って、お腹に触れた。
なぜそんなことを聞くのか、と驚く人がいるだろう。
体育祭の打ち上げの時に気づいたことなのだが、彼女は人ゴミが苦手なようだ。
教室は机と椅子がある一定の間隔を空けているが、
打ち上げで使用するような食べ物屋は座席の間隔はあってないようなものだ。
十五分ほどして平木の様子を見ると、顔を下を向いて目が動いていない。
いつも無表情だが普段から見慣れている僕にとっては、
何かが違うことは察することができた。
それから僕は平木を外に連れ出して、途中で二人、帰ることした。
うなだれるように歩く彼女を抱えながら、
僕は彼女のことをより理解できたようで嬉しかった。
そしてずっと一人で本を読んでいるのは、
単に他人に興味が無いわけがじゃなく、生まれもった性質なのかもしれない。
まぁ僕は彼女が人ゴミが苦手なことよりも、
打ち上げにきたことに意外さを感じたのだが。
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