第12章「冷めた花火」その3


はっきりした答えの出ないまま、僕は校門で待っていた。


足音が近づいて、大きくなっている。


「待ったかしら?」


僕は目を奪われた。



「それって浴衣?それに眼鏡」


その冷たく綺麗な表情に青い浴衣といつも付けている丸眼鏡を外した、


彼女はただただ美しい存在に見えた。




「ええ。母が持っていたから、借りたの。


眼鏡は浴衣に似合わない気がして、今日だけコンタクトにしたの」



レンズ越しではなくなった彼女の瞳はよく見える。



「どう?変じゃない?」


「なんて言うか、すごく似合う。それに…」


「それに?」


綺麗だ、と言いたかったが褒めるのは照れ臭かった。


「いや、それにしても今日は暑いな」


僕は先に歩きだした。


彼女が今どんな顔をしているのか、気になったが見れなかった。


僕らは河川敷に方向へと向かっていた。



日は傾きかけ、赤い模様の空はまさに夕焼けの情景を描きかけているのに、


蝉の鳴き声が遠く、でも力強く、そこら中の木から聞こえてくる。


ここからは歩いて二十分ほどかかるが、二人で向かうならちょうどいい時間だ。


いつもは帰るといっても、十分ほどで家路が別れてしまう。


だからこうして長い間、しかも夏休みという特別な休暇で、



君に会えたことは何か意味があるんじゃないかと、


勝手な空想が頭の中を飛び回るんだ。

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