第12章「冷めた花火」その2


「それってマジ?」


「ああ、まぁ見てろ」



僕は携帯と宿題のテキスト、筆記用具を持って、自分の部屋に戻った。



よし、電話しよう。


プルルルル・・・、呼び出し音が嫌に長く感じる。


汗でにじむ手を握り締める。


「はい、平木ですけど」


よかった、平木の声だ。


「あぁ、平木か?」


「どうしたの?」



電話がかかった達成感で、かけた目的を忘れてしまった。



「いや、最近何してる?」


「そうね…本を読んだり、将棋をしてるわね」


もうおっさんのような趣味だな。


「そっか。充実しているな」


「そんなお膳立てはいいから、早く要件を言いなさい」


「花火大会に行かないか?」



「ええ、いいわよ」


「マジ?それなら、明後日の夕方5時に学校の校門に集合で」


「ええ、わかったわ」


「それじゃ」


ピッピッピッ、通話が切れた音が鼓膜に反芻する。



案外あっさりいった。


ここまですんなりいくと、裏に何かあるんじゃないかと疑ってしまう。


あの日以来、常識や当たり前を疑うようになった。




「ここから飛び降りて」




もしもあの言葉に従わず、平木を見捨てていたのなら、



悩み部屋を知ることはなく、花火を見る約束も出来なかったわけか。



いや、平木に出会わずとも、他の誰かが悩み部屋に入っていたのだろうか。



でも、なぜだろう?


「君が初めでよかった」


だってあんな出会い方じゃなければ、仲良くはなれなかったと思うから。


それからベッドで横になっても、熟睡という睡眠ができなかった。


平木との待ち合わせまで、「もしもあの時…」という考え事が頭から離れなかった。



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