第9章「集わぬ参加者」その5


さっきまで西山の声以外、何ひとつ聞こえなった教室が


人の声で混じり合って、放課後の帰る雰囲気ではなくなった。


クラス中に飛び交ったのは怒号ではなく、準備をどうするかの予定についてだった。



ふつう、ここは大ブーイングはが起きるはずなのに。


まさか西山が言ったんだから、みんな許容したのいうのか。


嘘だろ、美少女は他者の耐性を高めることができるのか。



「じゃあ、ここからは僕が話すよ」



話は隣にいる新田に変えられた。


「えっと、話を戻すと、みんなに準備してもらいたいのは、入場門の二つの柱の塗装だ」


「塗装と言っても、絵具で上から塗るだけだから、僕らでも十分にできる作業だ」



「なんだよ、要するに塗り絵かよ、簡単じゃん」



「そうだね。でも、塗る面積が大きい分、


クラス全員で協力しないと、金曜日までに終わらないかもしれない」



「じゃあ、今からやらね?」


「お、いいね」


「今日、俺、部活サボるわ」


「柱はグランドの倉庫にしまっているから、男子十人くらいでここまで運んで来てくれるか?」


クラスの三分の二くらいは残ることになった。


帰ったのは、用事がある十人足らずの生徒だけだ。


いや、その用事に中身があるかは知らないが。


「ちなみにこの教室は七時までならOKだ。


七時になったら、鍵を返しにこいよ」


秋山先生は、そう言い残し、教室を去っていった。


もう帰れるような雰囲気ではなかった。


みんな、各自で何を担当するか話し合い、または体育祭前夜のような


これから起こる青春イベントを楽しそうに待っている。


あぁ、みんな楽しそうだ。


視界が次第に暗く、狭まっていくような感覚だ。



こういう時、僕は一人になってしまう。


みんな、自分の席から離れて、自分が所属しているグループに

行っている。



でも、僕はどこに行けばいいのかわからない。


どこかふさわしい場所なのかわからない。

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