第9章「集わぬ参加者」その2



「体育祭まであと一週間余りとなった」


寝つきが悪い日曜日が明けて、今日は月曜日だ。


授業が終わり、ホールルームで秋山先生は体育祭について何か言っている。


すでに各々が出場する種目は決定し、後は舞台の準備とリハーサルについて、


もう十分以上は聞かされている。


秋山先生が笑いながら、いつもより雄弁になっている理由を僕は知らない。



この教師は人間的には嫌いではないが、僕とはまったく違う人種だなと、


三カ月の付き合いだが、はっきりとわかる。



理解できない言動は多々あるが、


まずはなぜ教師まで気分が高まるのかが分からない。


もう何度も経験していることだろうし、


仮に優勝できたとしても、何か特典があるとは思えない。


正直、真面目に聞いている者は一番後ろの席から見る限り、


見る影もなかった。



相変わらず、平木は退屈そうに本を読んでいる。


もう、この少女の人の話や意見に聞く耳を持たない感には慣れ始めた。


まぁ、いつもなら、この度胸に目を見張るが、


今日に関しては、平木に共感している。


僕もそろそろ手元にある携帯を触りたくなってきた。


四月、五月頃は、慣れない高校生活に不安と戸惑いがあった。



いるはずだった空白の右隣の席、友だちとは呼びがたいクラスメイト、


口やかましい家族、どこにも見えない進路、飛び降りた僕と少女、そして悩み部屋、


新しいことが雪崩のようにせまってきた。



でも窓の景色は、その雪崩への不安を和らげてくれた。


それくらい美しく、遠く見えたんだ。

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