第9章「集わぬ参加者」その1


「いい加減にしてよ!」





クラスメイトたちの動かしていた手が止まった。


しかし、カチャ、カチャ、…と時計の針だけは止まることなく、


時間は前のめりになるほど、刻一刻と進んでいくようだった。


女の子が怒るのは迫力がある。


相谷は普段から感情の起伏が激しい奴だとは思っていたが、


こうやって、大衆の場で怒ることができる人間だとは思わなかった。



なぜなら、彼女は準一軍、いわゆる二軍に属する人間であり、


クラスにおいて優位的な立場ではあるが、


絶対的な地位を獲得しているわけではない。


周囲を見渡すと誰かがこの気まずさを何とかしようと、


しゃべろうとしているのがわかったが、


ひりついた空気にのまれて、出るはずの声が出ないことを察した。



教室に緊張がずっと一人歩きをしている時、僕はこの状況を不憫に感じつつ、


未開の地にたどり着いたような高揚感と期待に胸を躍らせている。


だが、そう思っていても、この空気には良心がちくちく痛められる。


それは汲み取って感じるものであり、教えられてわかるものではない。


知識ではなく、経験は教育ではどうにもならないということだ。


とにかく、こういう空気をくみ取ることができない奴は、


いわゆるKYと呼ばれる蔑称が与えられる。



僕らは言葉だけで言葉を理解しないし、できるわけがない。


だからこそ、1年3組はこんな状況になったのではないだろうか。


何はともあれ、こんな僕らを理解してもらうには


二日前までさかのぼらなければならない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る