第7章「移りゆく時期」その2


そんな悲観的な僕をよそに


黒板にチョークが走る音が教室中に響いている。


色黒でグラサン、坊主にジャージを着た


教師とは思えない風貌をしたおっさんが


ひたすら黒板に面と向かっている。



「じゃあここまで書き写せ」



山寺の嗄声(させい)が教室の緊張感を高めたかのように、


その声が発せられた瞬間、


みんな試験の時のようなスピードでペンを走らせている。


金曜の二限の現代社会は一軍のやつらでさえささめごとを飛び交かすこともない。


もし談笑している姿が見えたなら、奴はそのヤクザのような顔で


その生徒を殺すと言わんばかりの目を向けてくる。


これで手を出そうものなら、刑事事件になるんじゃないのかと本気で思ってしまう。



なんせ山寺は完璧美少女の西山にさえ怒ったこともあるし、


あの冷たい美少女(クラスの男子がそう名付けた)平木も怒られたことがある。


男の先生は女子に甘いというのがセオリーだが、


ここまで分けへだてないと逆にすがすがしく感じる。


誰だって美少女を怒ることは気が引ける。



「可愛い」は正義を超えてしまうのだ。


これは不変の事実だと思っていた。


しかし世の中には必ず例外があり、その例外を行える人間を僕はカッコいいと思う。


だからといって、山寺のようになりたいかと言われればとうていYESとは言えないが。


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