第3章「僕たち私たち」その2


長い沈黙だった。


「また明日。」



「うん、また明日。」



ハァ、.................疲れた。


修学旅行の帰り道よりもしんどいな。


今日は初めてのことが多すぎた。


屋上から飛び降り、未空間への突入、少女の壮絶な悩み、


僕にとってこれらのことは何もかも刺激が強すぎた。


そもそもこんな出来事を僕が体験していいのか。


もしかすると配役を間違えたんじゃないのか。


もっと、こうイケメンで特別な力とか才能があったり、


選ばれた奴がこういうぶっ飛んだ体験をするんじゃないのか。


僕がルックスを褒められたのは、母方の祖母ぐらいのものだ。


まぁ、容姿で馬鹿されたことはないが、


それでも意気っていると思われたくないから、


高校生になっても母親に買ってきてもらったワックスを自分の髪に付けられないんだぞ。


…つまり僕は


才能なんて一つもない。


特技といえば、中学三年の時に凡庸な公立中学で数学と理科が


クラスで一番だったことぐらいだ(自慢ではない)。


ちなみに一番になったのは春学期の期末テストだけで、



人に自慢するときには中学三年の一年間と、少し見栄を張る。


自分で語っておいて、自分の姑息さに嫌になる。


…話を戻そう。


確か、、、、僕がいかに平凡かという話だったな。



そう、僕の父親はサラリーマンで母親は今時珍しい専業主婦、


中学生の妹がいる一般家庭の中で暮らすクソがつくほどの平凡な高校生男子なんだぞ、僕は。


これほど語れば、僕がいかに平凡かお分かり頂けたはずだ。



理由が欲しかった。


何か納得のいく答えというか誰か僕を納得させてくれ!


しかし疲労と睡魔で腑に落ちない気持ちが


ぼーっとかすれていくようなそんな感覚に陥ってしまった。


悩み部屋と呼ばれる、あの空間では疲労どころか食欲すら感じなかったというのに。


きっと精神的なものだろうな。


僕が屋上から校門まで道のりを思考に思考を重ねている間、


僕を追い越していく人、ましてや通り過ぎていく人は一人もいなかった。


帰宅部の生徒はとっくに下校しているし、運動部はまだ練習をしている。


この鼻の差というべき時間を僕は嫌いだった。


でも、今日だけはこの時間がありがたくもあり、


しかし誰にも構ってもらえない子どものような気分になった。



悩み部屋、物理法則をすべて無視したようなあの空間、


あれはこの世の真理をぶっ壊すようなそれくらいの出来事だろう。


悩み部屋、これを世間に公表すれば、僕はその第一発見者として


いや、それは平木か。


僕は彼女の数少ない選択肢の中で端無く選ばれたただの代理、指名代打だ。



しかし僕は言えないし言わない。


彼女の悩みは誰かに知られていいものではないはずなのだから。

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