第3章「僕たち私たち」その3



校門を出ると、僕は途方もないほどの自己嫌悪に襲われた。


なぜって?


うぬぼれたんだ。


僕はやっと、どこかの主人公になれたんだと。


美少女と出会い、常識では語れない事象が起きて、助けて、そこから二人で抜け出す。


誰もが経験し得ることはないであろうこの状況に屋上からここにくるまでの間、


浮かれてしまっていた。


いや、あの悩み部屋にいた時もそうだ。



不安や恐怖は当然あった。


しかし、それだけじゃなかった気がする。



あの時僕は、子どもが欲しい玩具を自分のお小遣いからではなく、


買ってもらったような瞬間と似た高揚感が心の底の方に溜まっていた。


あの時に気づかなかったのは、心が興奮と緊張のせいで熱くなって


それが溶けていたせいだろう。



後から思い返せば、いや今こういう感情だからそう思うだけなのかもしれない。


…とにかく僕は変わったと思ったのだ。


いや、世界が僕の方へ変わりに来てくれたのだ、と。



綺麗で不都合なことはスキップ出来て、


困難や不幸もまるでその後に来る冒険の前置きのような、


全てが都合よく組み合わされた夢のような世界が僕の方へやってきたのだと。


僕だけにしかない経験が出来たのだと。


一五歳の少女が死を選んだというのに僕自身は、


心の見えないほど端っこで何か達成感を得てしまった。


馬鹿だ。でもそんな馬鹿な自分をどこか認めてしまっている。


気づけば、家に帰るための曲がり角をすっ飛ばしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る