第1章「平木尊」その15


「じゃあ、これは今日の日直の....えーっと、小西と平木が頼む。」


そう、宿題とかの提出物は日直が持っていくことになっている。


学級委員は忙しいらしい。



サッカー部に所属する小西は、


仕方がないと言わんばかりのため息をついて


「へーい。」


と言い、さっきまでホームルームを蚊帳の外状態で聞いていた平木も名指しで呼ばれて、


さすがに返事をしないわけにはいかないと思ったのだろう、


「分かりました。」と言いつつ、


その口調からはこの状況を快く受け止めていないそんな感じがした。



「それじゃあ、これでホームルームを終わります。」



一度横入りがあったせいか、みんないつもより急いで教室から出ていった。


...僕も帰るか。今日は何だか疲れた。


いつもなら少し教室に居残る僕だが、イレギュラーな今日はそんな気になれなかった。


早々と渡り廊下を歩き、一歩また一歩と階段を降り始めた。


誰が勢いよく走ってきた。


その時、そいつの振った腕が僕の肩にかすった。危ないな。



日直で頼まれた小西だった。


「おい、小西。」


「ハァハァ、何だよ、羽塚。俺、急いでるんだけど。」



こいつぶつかった事に気づいていない。


まぁその事はいい。


「確かお前、日直だろ。ノート届けなくちゃいけないはずだよな?」



「俺、今日サッカー部で練習道具、準備しなくちゃいけねぇんだ。


1分でも遅刻すればまた明日もやらなくちゃいけなくなる。」



確かうちのサッカー部はインターハイに出てるほど強豪だったはずだ。


だからって1分の遅刻でそこまでやらすとは。


軍隊じゃあるまいし。


それに僕らには部活以外にもやるべきことがあるっていうのに。



「だからって平木ひとりに任せるのか?」


「あいつにはちゃんと事情は説明したって。


それに、あいつ今まで休んでたから、前回の日直は俺一人だったんだぜ?


これであいこさ。あ、やべぇ。俺もう行くぞ!」



あいこという平等性を提示した


小西は止まっていた足を伸ばし、階段を2段飛ばしで降りていった。


馬鹿か。ここは資本主義だ。


平等というものは存在しない。


教室に戻る道の最中、平木が廊下を歩いていた。



その両手には先ほどのノートが覆いかぶさっている。


ざっと見積もって30冊くらいはある。


それを1人で運んでいる。



あの量をいっぺんに持っていくことは女の子には厳しいかもしれない。


「貸して。僕が持つよ。」


僕はそう言って、平木が持っているノートを自分の手に移した。


彼女を見ると、少し驚いた様子でいつもより目が大きくなっているような気がした。



「同じクラスの羽塚くんだよね?」


意外だ。


「僕の名前を知ってたんだ?」


「ええ。同じクラスだもの。それで、あの、羽塚くん。」


「ん?あぁ、お礼はいいよ。」


「お礼?安心して。感謝なんてこれっぽっちもしてないわ。


むしろ大量のノートを持って重そうにしている女の子を手助けしたと、


自分に酔いしれている貴方の顔に軽蔑したわ。


そもそも私は貸しを作るのは好きでも、借りを作るのは嫌いなの。


そもそも、私は貴方に助けてなんて一言も言ってないから、


借りにもならないし、この程度の荷物を持てないんだと、見下された気分になったわ。」

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