第1章「平木尊」その10
右隣にいるべきはずで、今そこにいる平木が表情筋が
完全に固まったような真顔のお手本のような顔で僕の方を注視していた。
じーっと、僕の顔を見ている、いや睨みつけているのか。
気づいて、もう20秒くらい経っている。
それでも、彼女顔は最初の表情から寸分違わなかった。
...こ、怖いな。
ただでさえ、顔のパーツがくっきりしている分、
真顔で見られると威圧感というか、息苦しいほどの圧迫感を感じる。
まるで西洋絵画に描かれた美女に睨まれているようだ。
「…」
無言だ。
ここまで見られて、何も話しかけられないのは、人生で一度あるかないかだと思う。
「...ぁ」
全く表情を変えなかった彼女の顔に変化がみられた。
唇が少し動いた。
彼女はようやくその重い唇を開けたのだ。
話すのか?僕に話しかけるのか?
「ここの範囲ってもう終わったかしら?」
「えっ、えっ~と、そこは確かやってないはずだよ。」
初めて彼女の声を聞いた。
とても軽く、しかし何かを抱えているかのような重みのある声だった。
ちなみに平木の質問に答えたのは、僕じゃない。
ちなみに聞かれたのも、僕じゃない。
まさか平木は僕ではなく、平木の席から見て、右にいる女の子に聞いたのだ。
さっきの凝視はいったい何だったんだ!?
僕の意識が右隣の座席ではなく、
右隣の彼女へと変わっていったことにこの時の僕はまだ気づいていなかった。
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