第1章「平木尊」その9
まるまる一時間ノートを取っていなかった。
右隣にいるべきはずの彼女が現れてから、この一時間、僕にとって黒板の文字、
数式はただの文字でしかなく、僕の脳は右隣の席を譲らなかったのだ。
まぁ、いいか。物理の授業は教科書通りに進んでいるから、
後で読めばいいだろう。
次の時間は何だっけなぁ...現代文か。
僕は物理の教科書とノートを掛けてある手持ち鞄にしまい、
自分の鞄をまさぐりだした。
いや、自分の鞄にまさぐるという言い方は問題があるかもなぁ。
...何か感じる。何か見られている感覚。
勘違いか…いや、違う。よく分からないけど、じわじわ悪寒が走って来た。
僕は、ふだん連んでいる男友達の方を見た。
しかし、あいつらは月曜の1限ということもあってか、
持参した枕を机に置いて寝ている。バカだな、あいつら。
まだだ。まだ感じる。
前には、僕を見ているものはいない。
授業を終えた教室全体を見渡してみる。
しかし、みんな談笑しているか、寝ているかどちらかだ。
僕を見ている人は誰もいない。最後に右隣だ。
まただ。僕は右隣に恨まれているのか?
おそるおそる僕は右隣を見た。もう、分かるだろう。正解だ。
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