第1章「平木尊」その8


しかし、そこまで理想の学生である彼女は筆記用具を持たず、


おそらく初めて使うであろう机の右端に線に沿って置かれた教科書を開くようすもないし、ノートも用意していない。



一体何を考えているんだ?



僕は本来みるべきはずの黒板ではなく、右隣の席ばかり見ていると、ベル音が聞こえ始めた。



チャイムだ。もう終わりか。


しかし何だがいつもより長く、疲れた1限だった気がする。



「え~、今日はここまで。次回は斜面を滑る


物体の運動方程式について教えるから、今日の復習と次の予習は必ずするように」



物理のベテラン教師である山形先生は、


まだ話したがっていたが、この人はチャイムで終了しないと、次の授業まで引き延ばす教師らしい。


そのクレームの代償として、チャイムが鳴った瞬間に授業を終わらすと自分ルールを決めているらしい。


几帳面というのも、生きづらいものだ。


.............あっ!!


僕は机にある筆記用具を片付けていると、ある重要なことに気づいた。


ノートを取るのを忘れたのだ。

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