第1章「平木尊」その7

問題は自分の座席に戻った時だ。


例えば授業中でも、うちの先生の英語の授業なんかでは


隣の席の人とペアになって英文の訳しあうというものだ。


もうお分かりだと思うが、


とうぜん僕にペアになるべき人なんて存在しない。


最初は英語担当の矢崎先生も僕に気をつかって、


先生とペアを組むか提案されたが、それは恥ずかしかったのでやんわりと断った。



それ以降、僕は一人で英文を訳すはめになってしまった。


そんなこんなで、僕の高校生活のスタートラインを狂わした


(もちろん僕の責任でもあるのだが)張本人が僕の横で授業を受けている。



長く長く伸ばした真黒の髪、白い肌。


目鼻はくっきりして、口は小さく、唇は赤に近い桃だ。


縁のない丸眼鏡越しに映る瞳ははかなくも美しく見えた。


正直に言って、彼女は綺麗だ。


ただ可愛いのか問われるとそれは少し違う気がした。



まるで芸術のような、僕とは少し違う世界に生まれた人だと思った。


背筋は伸びきって、上半身と腰は垂直、手は膝に置き、


足は体に平行にして、黒板をじっと見ている。


理想の授業態度だ。


かく言う僕は机に肘をつき、背もたれに寄りかかっている。

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