第1章「平木尊」その5


しかし同時にデメリットも存在した。


窓際の最後列には話し相手が最高でも3人しかいないのだ。


1人は僕の座席の前の人。もう1人は右斜め前のひと。最後に右隣の人だ。



しかし、最初に言った2人は話しかけづらい。



なぜなら彼らは僕と話すとき、


後ろを向かなくちゃいかなくなる。



それは授業中に先生に注意を受ける確率を高める愚策だ。



だからということもあってか高校生活のスタートライン、


ボッチを回避するためにも


授業中でも話すことができる右隣の人とは、


絶対に仲良くなりたかった。



しかし、いなかったんだ!



僕の右隣にいるはずの平木尊という少女は


高校生活のスタートラインから著しく遅れていたのだ。



最初は風邪なのかと思い、気楽に待っていたが、



一週間たっても一向に学校に訪れず、さすがに心配になった。



うちの担任の秋山先生に事情を聞いてみたが、


先生は何とも言えないようなしぶった顔をして僕の求めていた答えをはぐらかした。



あんな顔をされたら、もう一度聞くことは野暮だろう。


さすがに彼女の家まで行くのは、気が引けた。



クラスメイトとはいえ、会ったこともない奴が見舞いに来たら


(病気と決まったわけじゃないが)、彼女も引くだろう。


当然彼女の家がどこにあるかなんて知る由もないが。



そんなこんなで、


最初の一週間は会ったこともないクラスメイトの虚像ばかり追いかけていた。

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