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車内ラジオから聴こえてくる女性パーソナリティーの声に引き続いて音楽が流れ始める。テンポの良いメロディと可愛らしい歌声が車内に響いた。
「あっ、フルリールの新曲!」
『舞ちゃんが好きなアイドルグループだよね』
「うーん。最近のフルリールはダメ。売上のランキングも1位取れないし、8月に行ったライブも前に比べたらイマイチだったの」
『どうして?』
「グループのセンターが変わったんだよ。莉愛ちゃんが死んじゃったからね」
新曲のクロノスタシスもサウンドは新鋭でも、歌詞や振り付けはありきたりで、過去のフルリールの楽曲と似通っていてつまらない。
『確か春頃だよね。アイドルの子が自殺したってニュースで見たよ』
「莉愛ちゃん可愛くて人気だったんだ。舞はリーダーの優奈ちゃん推しなんだけどぉ、莉愛ちゃんは二番目に好きだった」
新曲が過去のフルリールと似ているなら、ファンは懐古主義と言われても望月莉愛がいた頃の曲を好む。
莉愛はどんなにありきたりな歌詞や振り付けの曲でも、ファンを魅了する不思議な力を持っていた。あれがカリスマ性と呼ばれる力だ。
「でも今センターにいる高倉咲希は性格悪いから嫌い。咲希が莉愛ちゃんいじめてたって噂あるんだ」
『ありがちな話だね』
「莉愛ちゃんが自殺した原因はリベンジポルノってやつみたい。芸能界は怖いなぁ」
インスタグラムのメッセージ機能を通して舞にもたまに芸能スカウトからのメッセージが届く。保護者代わりの木崎愁や兄の伶からは芸能関係の仕事はするなと口酸っぱく言われているため、スカウトのメッセージは無視をしているが、本音を言えばモデル活動に興味はあった。
可愛い服を着て、綺麗にヘアメイクをしてもらって写真を撮って、周りにちやほやしてもらえる。こんなに自分に合う職業はない。
夏木コーポレーションの令嬢の立場にいる舞は働かなくても生活には一生困らない。
進路指導ではなんとなく大学進学を選択しているものの、受験勉強は面倒だ。その後に就職して毎日働くなんてもっと面倒くさい。
高校卒業後は大学には行かず、バイト感覚でモデルをしたり、海外での生活も悪くない。
兄と愁と一緒にフランスの可愛いアパートにでも住めたら毎日が楽しそう。
舞はとにかく自分に甘くて世間知らずな子どもだった。モデルの仕事の過酷さも、海外移住には語学力や社会の知識が必要なことも彼女はまったく考えない。
『リベンジポルノか。最近はそういう犯罪が問題になってるね。舞ちゃんも気を付けないとね』
「舞は大丈夫だもーん。吉田さんはそんな酷いことしないでしょ?」
『当たり前だよ』
運転席から伸びた手が舞の頭を撫でている。
吉田のこの優しい手があと少し経てば舞の身体を夢中で這い、舞の腰を掴んで野性的に下半身を打ち付けていると思うと、早くベッドで彼とひとつになりたくて子宮が疼く。
『こらこら。何してるの』
「車だから誰にも見えないもん」
運転する吉田の隣で舞はスカートを履いたままショーツだけを下に降ろした。
脱げたショーツは舞の足首にまとわりつき、太ももの付け根までたくしあげたスカートの隙間から剥き出しの下半身が見え隠れしている。
『隣でそんな可愛いことされてると気になっちゃうなぁ……。僕が事故起こしたらどうするの?』
「事故になったら大変なので吉田さんは運転に集中してくださぁい」
フルリールの曲は一番サビまでが流れていた。曲の後はまたスタジオの女性パーソナリティーとゲストの饒舌な会話に戻り、軽快なやりとりを流す車内ラジオの片隅で、舞の下半身もお喋りしている。
「濡れてきちゃった」
『うん、舞ちゃんの音が聞こえる。今日は凄いね』
「生理終わったばかりでムラムラしてるの」
助手席で突如始まった少女の自慰。下半身から漏れる音をわざと吉田に聞かせる舞は、吐息にもわざと甘ったるい声を忍ばせた。
『運転中の男を誘惑する悪い子にはこうしちゃうよ?』
信号待ちの間、待ち望んだ吉田の指が舞の割れ目をなぞると舞はひときわ甲高く鳴いた。
信号待ちのたびに吉田は舞の蜜に指を湿らせる。まさか車の中で少女と中年男性がこんな卑猥な行為をしているとは誰も思わない。
何も知らない人々が信号待ちの車の前を素通りしていくのを、舞は上気した頬を緩めて眺めていた。
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