瀬戸物

世界で最初に本とよばれたものは紙の束ではなく、粘土でできた焼き物だった。渇いて固まった土のようなみすぼらしいものを想像してはならない。それは白くて半ばガラス化した陶磁器である。本という字がきざみこまれ、自分自身を本と名付けている。中心に亀裂が入っている。最初私はそれを世界を分かつひびのようなものかと思った。しかし実際には末端と末端をつなぐ腕のような役割を持つものであった。


それがすなわちエダであった。


エダにはツタがからまっている。ツタのせいでエダの形がよく分からない。エダもツタをうとましく思っているのではないだろうか。


まだツタが細く短かったころ、エダはツタにテを差し伸べた。これは素朴な親切心からなされた行為のように私には思えた。ツタはそのテにつかまった。ツタにはほかに頼るものがなかった。エダは、ツタのふるまいにたいそう驚いた。ツタのように他者に四六時中徹底して密着しようとする生き方があることをエダは知らなかったのだ。エダはツタのせいで満足に日光に当たれない。それでも、エダはツタの細さや青さを好ましく思ったし、ツタを受け止める自分を誇らしく感じた。


ツタの成長は早かった。そのため次第に、エダには好きだったツタの全身を眺めることができなくなっていった。もちろん、傍からみればツタの中心には常にエダがあるのだが、エダはそのことに気づいているのだろうか。ある日、

と書かれたラーメンのどんぶり。

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