最初の詩人

 いち、にの、最初の詩人は、最初の主観で書いていたらしく、それは例えば、

 「透明できれいなコップが、清潔そうで私は好きです。」

 書くことは、つかんだ糸をはなさないように手繰りよせながら、森の中を歩いていく童話の中の子どもに似ているっていう話だった。だから書くときはトイレットペーパーがベストだと言っていた。文が途切れないからだ。だけども、ぼくが学校の便所から持ち出したトイレットペーパーをプレゼントしたときも彼の態度はそっけなくて、

「シンプルなのがいいんです。ずっと三人称だったのが、最後に一人称になるだけのお話はだめでしょうか?」

「知らない。いんじゃね?」

 いち、にの、最初の詩人は、いち、にの、散歩の途中に、ごお、ろく、転んで死に、これから始まる最初の詩人。

「私は、ほとんど部屋でひとりでいます。」

「部屋で、はがしたかさぶた集めてます。」

「はみがき忘れて眠ってます。」

「字を書いてます。」

「私は手が冷たくて鉛筆の持ち方が悪いので、親指の爪が人差し指に食い込んで、目が覚めたばかりのときはよく間違えた場所にいるような気がします。」

「新しい靴をはいたときの感触は清潔そうで、私は好きです。」

「歩いていく大学にはなるべく毎日行きます。」

「詩は詩的なものとして始まったように思います。」


(私はだれでしょう?)

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