理路

 理■

 ■路


 フロイト先生は「夢の中では計算ができない。もしあなたが計算をする夢をみたとしても、それはナントカのカントカだ」

 というようなことを言っていたと思うけど、僕はさっきこんな夢をみた。

 僕は女の子をあずかっていて僕はその子にお菓子をあげようとしている。袋をあけると、女の子が値札を見つけて、

 「600円もするんだ。私のためにそんな大金をー」と言った。

 僕は、

 「大金じゃないよ。10人で60円ずつお金出しあってかったから。60円なら大金じゃないでしょ?」と言い返した。

 その女の子はまだ小さくてかけ算やわり算はできそうになかったから、僕は電卓を取り出して60を10回たす計算をやって説明しようと思った。でも何度やってもボタンを押し間違えてしまう。

 ここで目が覚めたので終わりだが、あの女の子はとてもかわいかった気がして惜しいので、続きを考えてみた。

 僕は女の子をあずかっているが、その子の両親がその子を引き取りにこないことを知っているので、その子をもう寝かした方がいい。

 「俺とお風呂はいろっか」

 「いい」

 「なんで」

 「お父さんと入った方が楽しいもん」

 「でも今日お父さん帰ってこないって」

 「帰るまで待ってる」

 「だめだよ。だってもう寝る時間だもん」

 「今日は寝なくてもいい日なの」

 「うそじゃん。じゃあ俺ひとりで風呂入っちゃうよ。ひとりで風呂入ってひとりで寝るから、しらないよ」

 「うるさい」

 「そんな大きい声だすもんじゃないよ」

 「死ね」

 「あ、そんな汚い言葉いうか。そんな汚い口は洗ってやる」

 言いながら僕は祖父に怒られたときの事を思い出している。祖父は僕が「死ね」とか「くそじじい」とかの言葉を使った時、「そんな汚い言葉を使う汚い口は洗ってやる」と言って僕を抑えつけて口の中に石けんを突っ込んだ。

 それで、女の子は口と鼻からシャボン玉を出すようになる。

 何かを言いたそうにぷくぷく泡を吐き出す少女の様子があまりにもかわいいので、僕は怒ってるふりをしたいのに笑ってしまう。女の子もつられてケタケタ笑う。仲直りして一緒にお風呂に入った。

 その子が石けんの泡を高く捏ね上げたところで、僕は子どものころ泡が好きだった事を思い出す。今は、皮膚病を連想してしまう。細かく、びっしり、というものは何でもそうで、皮膚病を連想してしまう。

 皮膚病はどうしても触れたら移りそうな気がしてしまう。

 何かを取り消した直後には必ず後悔したような記憶がある。

 もう一緒にいられないとわかったとき、僕はすごく悲しくて泣いてしまったけれど、同時に気持ちよかった。

 人間関係が固まったように安定することはなかなかないもので、洗いざらい無くしたい気持ちは常にある。

 かきむしることで悪化するものが、僕にとってそういう後悔の恐しさの表現なのかもしれないが、とにかく泡を見ていると皮膚病を連想してしまうので、僕はシャワーできれいに流した。

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