最終凡「モブになりたいわけじゃない」


「さあ、昨日行った血筋検査の結果を発表する」


 皆、自分の名前が呼ばれることを心待ちにするあまり、教室は物音一つせずにぴんと張り詰めた空気が支配していた。


「まずは、九頭竜くずりゅう 魔琴まこと、おめでとう。どうやら君の先祖は魔法使いだったようだ。だから君も魔法使いの才能があるようだ」


「よしっ!」


 今まで全く注目されていなかった九頭竜だったが、この発言により皆が一目置くようになったことは言うまでもない。


「じゃあ、続いて発表する……」


 田中はこのような事態に慣れているようで、毛ほども驚いた様子はみせなかった。淡々と血筋結果を発表する中、その様子とは対照的に俺はひたすら心の中で祈っていた。


 どうか、頼む、俺に、チャンスを! どうか、俺に……


 だけど、祈れば祈るほど、自分の名前が呼ばれる気がしなかった。暖簾に腕押し、何かつかめないものを掴もうとしている、そんな空虚な感覚に襲われる。


飯酒盃いさはい 洲棲すすむ、先祖が剣豪、居斬灰いさはい 一刃いちじんという結果が出た。おめでとう」


 そう言って田中はカルテのようなものを無造作に教卓に置いた。


「じゃあ、これでうちのクラスの血筋検査結果発表を終了する」


 田中は終了を告げるとともに、この学校生活をも終了させかねない発言を続けた。


「うちのクラスの残りの人間は凡人だ。悪いがこれは紛れもない事実だ。十日経過して何も発現しない人間は凡夫決定、せいぜい凡人オリンピックで優勝を目指してくれ」


 田中の予期せぬ発言に、クラス中の空気が凍り付く。今名前の呼ばれなかった二十人の生徒たちは顔面蒼白、自分がモブキャラだという烙印を押され、スキル取得の可能性を喪失してしまった。


――かのように思われた。


「ああ、みんな、そんな顔をするな。これも一つの通過儀礼だ。どうしても大器晩成型、遅咲きの人間だっている。まあ、そうは言っても、これからは今以上に過酷な環境が待っているんだ。だからその覚悟を持ってもらおうと思ってな」


 田中は能力、才能のゼロの俺たちに向かって追い打ちをかけるように言った。


「だから、ここで、抜ける奴は抜けていいぞ」


 さあ、君たちならこの状況をどう切り抜ける? 


 このまま田中の言う通り過酷な運命に身を任せるか?


 もしくは、ここでゲームから降りる?


 はたまた頭をはたらかせて別の方法を模索するか?


 残念ながらこれ以上この俺、圷亜連のとった行動について語ることはできない。


 なぜならここで圷亜連はここで主人公になったからだ。だから俺がこれ以上語り部として語ることは許されない。


 自分たちの人生だろ、自分たちの道だろ、ここからは自分で考えなってことだ。


 自分の人生なんだから俺の体験を活かすのもよし、全く気にしないのもよし、自分で決めれられるんだ!


 こうして、圷亜連は主人公スキルを得てこの主校を卒業した。彼は見事にこの先の人生が安泰であるという保証をされた。


 俺は主人公になったんだ。

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主人公スキル養成所~俺、モブキャラ卒業します!~ 阿礼 泣素 @super_angel

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