第2凡「情報通キャラにはなるなって言われたよね!?」

「……一時間目は『ヒロスク』との合同授業だから、第二講義室に移動するように」


 担任の田中はそう言って教室を後にした。『ヒロスク』とは隣の『ヒロインスクール』の略称で、多くの授業はこの『ヒロスク』に通う女子生徒と授業を受けることになっている。


 教室に残された俺たち一年A組の生徒はそれぞれに席を立ち、言われた通り第二講義室に向かう。


 皆それぞれに黙って教室を離れ、一人として他の生徒と会話をする人間はいない。


 それもそのはず、クラスメイトに気さくに話しかける生徒は主人公から遠のく存在となってしまうからである。


「情報通にはなるな! そして気さくに友達に話しかけるな」


 『主人公スキル養成』の専門授業で学んだことだ。情報通が主人公になる可能性は限りなくゼロに近い。なぜなら、そうした人物は永遠に主人公に仕える都合の良い存在になり果ててしまうから。だから、俺はそんなことはしない――絶対にだ。


 と、その時……


「なあなあ、圷って言ったっけ? 一緒に行こうぜ!」


「――ッ!?」


 出席番号二番、焰硝岩えんしょういわだった。


 俺は彼が俺に話しかけてきたことが信じられなかった。昨日あれほど言われていたのに、他の生徒に話しかける生徒がいるなんて……


「あ、ああ……一緒に行こうか」


 俺は動揺しながら答えた。


――チャンスが舞い降りてきたと思った。こうして気さくに話しかけてくる友人が表れたということは、俺は他の生徒よりも優位な状況に立てたということだ。


 そう心の中で考えていた俺だったが……


「うおっ! わっ! 何だこれ……!?」


 俺は目の前の光景に唖然とする。


――焰硝岩の右手から不完全燃焼の真っ赤な炎が出ていた!


 気焔万丈きえんばんじょうの右手に戸惑う俺と焰硝岩。


「わっ! これって俺……遂にやっちまったんじゃね?」


 焰硝岩は何か大きな力、自分の中の秘められた力が覚醒するのを感じた。


「焰硝岩! やったじゃないか! 炎の能力なんて主人公の筆頭スキルだぞ!」


 そう言って担任の田中が後ろから声をかけてきた。


「一年A組は幸先がいいなあ。この調子でいけばあっという間にみんな卒業できるな」


 嬉しそうに真っ白な歯を見せる田中。俺はまた先を越されてしまったということを痛感し、ひどい焦燥感に駆られた。


「くそう……どうすればいいんだよ! 話しかけるのはダメじゃなかったのかよっ!」


 俺はしっかりと言いつけを守っただけだ。なのに! 言いつけを守らなかった焰硝岩が先にスキルを手に入れるなんて!


「くっそ! どうなってんだ!」


 俺は欣喜雀躍きんきじゃくやくの焰硝岩を、羨望と嫉妬の眼差しで突き刺した。だけど、焰硝岩はそんな俺の当てつけには全く興味を示さない。


「見ろよ! あくつ! 炎だぜ、炎!」


「…………」


 俺は焰硝岩の嬉しそうな声に答えてやる余裕はなかった。


「悪いな、圷、短い間だったけど……ありがとうな!」


 本当にあっという間だったよ。ありがとうございました。


 俺は心で皮肉たっぷりに言ってやった。


「なんであいつだけ……」


 焦燥感と同時に激しい虚無感に襲われた俺。上機嫌で早くもこの学校を去る焰硝岩を傍目に、俺は黙って第二講義室に向かった。



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