主人公スキル養成所~俺、モブキャラ卒業します!~

阿礼 泣素

第1凡「俺って、モブキャラなんですか?」

――主人公スキル養成学校。


「主人公か……本当に胡散臭いネーミングだけど、面白そうだ」


 この広告を見て俺、あくつ 亜連あれんはそう直感する。


「ここで結果を出せば、その後は悠々自適な人生が……」


 打算的な考えを巡らせる俺。


 将来の夢に公務員だとかいう安定職が幅を利かせるようになってきている昨今、この主人公スキルというものも俺には至極魅力的な宝物の如く見えていた。実際、大学の授業でも主人公スキル科だとかいうものもつくられる目算が立っているわけで、これをこの高校生である今から取得できれば、将来は安泰だ。


「冒険なんて好きじゃない。この魅力的な称号、見えない能力が欲しいだけ」


 俺は決して悪を懲らしめる正義のヒーローに憧れているわけではない。

 俺は決して常に女の子に囲まれるハーレムの中心にいたいわけじゃない。

 俺は決して未知の世界に転生し、興奮を覚えたいわけじゃない。


 俺は安定が欲しいだけだ。平穏じゃない。人よりも優位に立つ、それでいて先のことを考えなくても万事うまくいくような。


――安定性が欲しい。


 それなのにこの主人公スキルなんて言う不安定で得体の知れないものに手を出すなんて馬鹿げているといわれるのかもしない。


 でも、考えてみて欲しい。成功する者は成功する。それが、必然であると言わんばかりに。成功する者がいる一方で、必ずそこには失敗する者もいる。全員が成功するなんてのは到底あり得ない。


 自分の置かれた状況がどちらなのか、あらかじめ知っておくのも悪くないんじゃないか?


そう思えた。


 うさぎと亀の話のように、最初に辛い思いをしてあとは遊んで暮らすなんて人生、最高じゃないか。


 自分の人生が当たりくじだって分かったら、その後の人生なんてイージーモードだろ?


それを判別するための施設、どうせ無理な奴は無理。

こんな考え方を冷めているって言うのはお門違いだ。

合理的で整合性のとれた意見だと言ってほしいね。

自分の人生が当たりなのか外れなのか。それを確かめるだけだ。

もしも、外れてたら?


――そんなの外れてからしか考えなくてもいいよな?


「はい、今から一年A組の出席をとります。

っと、その前に……早速だが、昨日、左右崎そうざきの家から連絡があって、彼は帰宅途中、突然空から降ってきた女の子と出会ったそうだ。これで彼は立派な主人公スキルを持ったということで、早くもこの学校を卒業することとなった。つまり、この教室から主人公スキルを持った人間第一号が誕生したわけだ。皆、左右崎のように立派な主人公を目指して日々精進しなさい」


 担任である田中はそう言って俺たち一人一人を見渡した。


「くっそー! 先を越されたか!」


 一番前の席に座る十佐近じゅうさこんは悔しそうに歯を見せながら唸っている。

「次に卒業するのは……この俺だ!」


 その隣に座る木賊とくさは、教室中に響き渡るような大声で高らかに宣言した。二人だけではない、クラスに居た全員が同じような心境であったことは言うまでもない。


「…………」


 この主人公スキル養成学校、通称、主校ぬしこうに入学して三日目、早速この学校を卒業する人間が表れるなんて思いもしなかった。俺は、心の中で焦っていた。正直なところ、平凡な人間でもこの場所に来れば何かしらのイベントがあると期待していた。


 だがしかし、入学して三日が経過した今も全く何もイベントが起きない。


 まだ始まったばかりだし、そんなに気を落とすことはないかもしれない。


 そう、ただの俺の考えすぎなのかもしれない。


 でも、もしかしたら、三年間モブキャラとしてこの主校で過ごすことになるのかもしれない。そう思うとやっぱり焦りを感じずには居られなかった。

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