41話 家畜が来たぞ
ヌー人隊商がやってきた。
しかも、なんだか大人数だ。
前はモリーの叔父であるパーシーを入れても5人だった。
だが、今回は他の獣人らしき集団までついてきているようだ。
「やあ、よく来たなベル。ゲストハウスを作ったが、これほど多いとは驚いたぞ」
「突然押しかけてすまないねえ、こちらはオオカミ人のガイだ。話を聞いてやってくれ」
オオカミ人の男女は6人。
ベルによると、このオオカミ人たちはパコ(ヤギ人が飼育する家畜)を仕入れるのを手伝ってくれたのだそうだ。
「やあ、よく来てくれたな。俺がごちゃ混ぜの里長ベルクだ」
「俺はガイ。この群れのリーダーさ」
ガイはいわゆるライカンスロープ、オオカミの特徴を強く持った獣人だ。
彼らは今までの群れから離れ、新たな里を開拓したいらしい。
そこで、他族に寛容なごちゃ混ぜ里の近くで空地がないか訊ねてきたそうだ。
里を新しく作るにあたり、既存の勢力と揉めたくないのだろう。
「ふうん、このあたりの土地ねえ。上流はリザードマンの里があるから下流がいいんじゃないか?どう思う?」
俺が訊ねると、バーンが「そうっすねえ」と腕を組む。
「丸1日も下流に歩けば森が切れるっすよ。あんまり近いとウチと狩場が重なりますし」
「そうだったな、ならどこがいいだろう?」
森が切れた先は湿地帯となる。
あまり住みやすい場所とはいえない。
「ふむ、川から離れれば水場からは遠い。水を考えれば下流ではないか?」
「泉なんかの水場はすでに誰かが住んでるだろうね。人手さえあればアタイが井戸を掘ってもいいけど」
スケサンとナイヨも話に加わるが……ナイヨは井戸が掘れるらしい。
「す、スケサンの洞穴のあたりは近すぎるかな?」
「そうすね、近すぎるのは互いに面白くないと思うっすよ」
森に詳しいアシュリンとバーンが意見を出し合っている。
俺たちの意見を聞き、ガイたちも相談を始めたようだ。
こちらにいくつか質問がくるが、これは森の様子に詳しいバーンやアシュリンが丁寧に答えていた。
「そうか、ならば俺たちは下流に里を構えたいと思う。ごちゃ混ぜ里とは争う気はない、できれば場所選びも助けてほしい」
ガイは頭を下げ、俺に鹿の毛皮を5枚も差し出した。
挨拶代わりってことなんだろう。
「ありがとう、この毛皮で冬の服を作るとしよう。こちらからも――おい、何かあるか?」
「はい、新しい里を開くならば陶器がよい。それに新しい弓も張りましたから、弓に矢もつけましょう」
俺の言葉にコナンがすぐに
どれも新しい里で役立つものばかり、コナンの細やかな気配りが光る。
「ま、なんかあったら遠慮しないでくれよ。できることは手伝うからな」
「すまん、恩に着る。俺たちが手伝えることがあればなんでもいってくれ」
この後、ガイたちは下流に半日ほど進んだ場所に里を構えることになる。
なるべく下流域の湿地帯から離れたため、やや近い場所になるが問題ないと判断した。
俺たちも別に親切で助けたわけじゃない。
友好的な隣人が増えるのは俺たちのためになるのだ。
まあ、これはこれでいい。
次はベルたちだ。
「ほらほら、さっさとパコを連れといで!」
ベルがパーシーに命じて、不思議な生き物を連れてきた。
ヤギ人が飼っていたというパコ、ヒツジより首や足が長い。
薄汚れているが毛色は黒と白だ。
「コイツがパコか」
「ああ、オスが1頭にメス2頭だよ。苦労したんだ」
アシュリンが「かわいいぞっ」と撫でたが、ツバをかけられていた。
性格は悪そうだ。
「へへ、里長さん。コイツらはなかなか気難しいんで――」
ヤギ人の生き残り、パーシーがニヤニヤしながらすり寄ってきた。
どうやらコイツは『自分がいなければパコは飼えないぞ』といいたいらしい。
俺は「わかったわかった」とパコと共に追っ払い、ヌー人たちの商品を見ることにした。
「どうだい? 酒や塩もたくさん持ってきたよ」
「酒か、ウチでも作り始めたんだよ、ちょっと見てくれよ――おーい、ナイヨ!酒を持ってきてくれ!」
その後はワイワイと賑やかな市となったが、今回の目玉はなんといってもアワだ。
アワは森でも栽培されている穀物らしい。
俺は見たことがないが、スケサンは知っているそうだ……なんでも知っている骨である。
「今からならギリギリ間に合うよ。秋の終わりには収穫できるはずさ、おいアワの育て方を説明してくれ」
「あいよ、説明っても、アワはどこでも育つのがウリだな」
ヌー人の男が教えてくれたところによると、土地を耕し、指で穴を開けた中に4~5粒くらい放り込んで埋め直すだけらしい。
ただ、同じ土地に続けてアワを植えるのと、水捌けのよい土地を選ぶのだけは注意しなければならないのだとか。
「また畑を拡げるか?さすがに人手が足りんよなあ」
「いや、先ずは少しでよかろうよ。人手が足りなければ我々で試し、リザードマンの里やガイたちに栽培を頼むのもいいだろう」
スケサン
あまり自分たちで抱え込まずともよいのだとか。
「ま、心配しなくても、ごちゃ混ぜ里は大きくなるよ。他に欲しいものはないのかい?」
ベルがしきりに銅製品を勧めてくるのだが、ナイヨが全て却下してしまう。
「木炭があればアタイがインゴットを加工できるからね。むしろこれからはウチで仕入れるのがいいだろうさ、他の金属はないのかい?」
「はあ、なんだい。酒も銅器も作られちゃ、こっちが渡すモンがないじゃないか」
ベルは前回の取引で酒と銅器に需要があると踏んでいたようだが、アテが外れたようだ。
来なくなられても困るから塩、銅のインゴット、染料などは多めに分けてもらうことにした。
「しかし、わずかの間に酒作りに製炭か。炭も欲しいけど、かさ張るし考えどころだね」
ベルがいうには木炭はかなり需要があるらしい。
ただ、木炭を運ぶと、どうしでも量が増えてしまうので交易には不向きらしい。
「次に来るときに塩が出たとかいわないどくれよ」
「はは、また来てくれよ」
今回はパコ、アワ、染料、塩塊を手に入れた。
ベルは陶器、木炭、ハチミツ酒、衣服、イモなど、さまざまなものを選んで行ったが、3頭のパコはずいぶんと値が張ったようだ。
「悪いんだけど、ジェーンを知ってるストレイドワーフがいたら、ごちゃ混ぜ里にいるって伝えといてくれないか?」
「わかったよ、任せときな。ジェーンさんだね」
旅立つ隊商を引き留め、ナイヨがなにやらベルに頼みごとをしていた。
こうした隊商はうわさ話などを持ち歩く情報源でもある。
俺たちのごちゃ混ぜ里もずいぶんと噂になっており、ガイたちも噂を聞きつけて来たそうだ。
ヤギ人の生き残りを探してもらうように俺も依頼しておいた。
「ま、次もいい噂になるように色々やってみるよ」
「はは、気をつけな。ここは面白いからね、変なのが来ないとも限らない」
少しだけ不吉なことをいわれたが「ま、アンタたちなら大丈夫だね」とベルは笑い、去っていく。
折角作ったゲストハウスだが、今日のところはガイたちに譲るそうだ。
ヌー、ヌーと独特のかけ声を上げながらヌー人隊商は去っていく。
「へっ、せいせいしたぜ、なにせアイツらときたらよ――」
パーシーが悪態をついていたが、これに同調する者はいないようだ。
■■■■
パコ
アルパカとかリャマに似た動物。
気性はおとなしく、あまりエサも必要としないために森や山岳地帯で飼育されている家畜。
毛や皮を衣服として、肉は食料として、骨は加工して道具に、クソは燃料にと全てが役に立つので、一部では『神様の贈り物』と神聖視すらされている。
だが、性格は悪く、気に入らない人にツバを吐きかけたり、クソをつけてきたりする、
アシュリンはファーストコンタクトで完全にバカにされた様子。
アルパカの別名はパコだが、ここでは別種。
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