嫌すぎる
沙羅はこの世界で10年以上暮らし、だいぶ暮らしにも慣れてきたが、それでもふと漏らす事がある。
「本当にあの平成後半から令和の時代に比べればこの時代不便・・・・・・」
「沙羅さん、とはいえ一般の帝国国民に比べれば、あなた相当いい暮らししてますからね?」
広い帝国で裏日本と呼ばれている地方等では未だ機械化も進まず、五右衛門風呂や竈や囲炉裏が残り、電気はあるが水道も通らない家庭も多い中、沙羅の為に用意された邸宅はガス風呂や上下水道、西洋式キッチンに水洗式トイレまであり、この頃の庶民には高嶺の花であるテレビや空調、洗濯機等最新家電も完備していた。
彼女も帝国の厚意に感謝し、恵まれた生活を送っている事は分かってはいたが、やはり前世の平成令和という時代での便利すぎる生活の記憶は忘れられず・・・・・・
「そぎゃんばってんたい・・・・・・」
「とりあえず方言やめてください。意味分からないので」
「はーい。博さんの言う通り、今の私は普通の帝都市民・・・いや、帝国中の誰よりもかなり恵まれてる。正直、前世で震災後に避難生活してた時よりいい暮らしよ。でもね・・・・・・テレビはまだNHK以外に一局しかないし!空調だって海軍用の流用だし!キッチンがあっても炊飯器すらないし!ガスで米炊くとかめんどいんですけどー?!」
「知りませんよそんなもん!神妙な顔付きで何言い出すかと思えば、そんなくだらない・・・・・・テレビとか空調はまだ技術進歩の途中なんですよ!それに大体、家政婦さんを雇うのに反対したの誰ですか?!」
「私だよ!知らない人が家に入って来て、台所まで触られるとか嫌すぎる!」
「この引きこもりオブザーバーが!日本語できる癖に買い物まで僕に行かせて!おかげで商店街の人達からは僕が沙羅さんのお手伝いさんくらいに思われちゃってるんですからね?!」
「間違ってはないでしょ?」
「うっ・・・・・・確かにあなたはほっとくと外食ばかりになりそうですし・・・・・・てか米炊くのがめんどいとか言いましたけど、それいつも僕がやってるじゃないですか!」
「てへぺろ」
「うわぁ・・・・・・」
「何やその反応は?!」
「こっちの台詞ですよ!いい年こいてそんな女学生みたいな真似を・・・・・・」
「こら、一応今まで正確な年齢は伏せてきたんだから!」
「大統領になった時で平均寿命越えてたじゃないですか」
「いや、豚じゃねーよ!」
「最強あまり外にも出ないで食っちゃ寝食っちゃ寝してるから、豚と見紛えたんですよ!」
「ぐぬぬ・・・・・・」
「ったく・・・・・・こんな事してないで、外に散歩に行きましょう」
「やだ。今日は近所の内村さんと約束があるし」
「外に出ないあんたがご近所さんと約束ねえ・・・・・・確か内村さんとこの奥さんって、今の時間はお仕事に行かれてるはずですが?」
「( ´・ω・`)チッ」
「女性の社会進出は合衆国でも帝国でもどんどん進んでるんですよー。じゃ、諦めて行きましょうねえ」
そう言って、ソファから離れようとしない沙羅を引きずって玄関まで連れていく博文。
「まってまってまって!ほら私って日光に当たると死ぬやん?」
「あんたはドラキュラですか・・・もう少しマシな嘘をついてくださいよ」
「いやいや、まってまって靴履かせないで!ちょ、博さん?こき使ってた事謝るからァ!イ"ヤ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!」
騒ぐ沙羅を無視して、靴を履かせ、外に連れ出す博文。
果たして、彼女は一回り以上年下の彼に屈してしまうのか?
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