情報戦略




 1946年 春



 沙羅は自らと同じ世界線から来た転生者を見つけ、自宅に招いて対話を行った。

 その中で彼女はこの世界での日本の歴史に言及、二度の欧州大戦を経験して躍進を続ける国に対し、国民の実感が薄いのは自らのせいだと言う。

 一体、彼女はこの世界の日本に何をしてきたのか・・・・・・



「一般の日本人は戦争による好景気には沸き立ちましたが、自国軍の活躍については、アウシュヴィッツやその他の日系人等収容所の解放くらいしか知りません」



「なぜ日本のメディアは大きく報道しなかったのですか?負けているならまだしも、日本は米英露と共に勝っていた」



「まあ普通なら大々的に戦果を報じるところでしょうけど・・・・・・それで国民に慢心が広がっては国全体の士気に関わります。前世で大日本帝国の軍人や国民が犯した過ちを、私は繰り返させたくなかった。だから、合衆国内でも戦果は控えめに報道し、帝国内でも戦果の過小報道を求め、一般市民の慢心を防いだのです」



「しかしこの世界では前世と状況が違います。こう言ってはなんですが、多少慢心しても仕方ない側面もあった。第一次欧州大戦の敗北から再建途中のドイツ軍が米英露に加え日本まで相手にして、勝てる見込みはなかった。それでもわざわざそんな事をしたのは何故です?」



「人間浮かれると、ろくな事にならんですから。前世の日本でも緒戦の勝利に浮かれ、世論に押され収拾がつかず・・・・・・戦争は始めるのは簡単でも、終わらせるのは難しいというのをよく分かってましたから」



「・・・・・・あの大東亜戦争の事を思い起こせば確かにそうですな。ですが、貴方は今正にアメリカと日本の経済面、軍事面双方で協力を強め、日米で世界を支配しようとしている。これは理由があるのですか?」



「ただ、この世界を前世のようにしたくないだけです」



「未だにアメリカもロシアもどこの国からも核兵器開発成功の情報がないのも?」



「私の仕業です。前世マンハッタン計画や英仏露で開発に携わった人間は、これからの技術進歩に重要ではない一部の者を米軍、帝国軍の特殊部隊、或いは敵の力によって始末し、有能な人材は合衆国やこの日本へ迎え入れました」



「いくら核兵器が危ういと言っても何と言う事を・・・・・・」



「あくまで私の手で恒久的世界平和を実現したいのです。まあ、それは置いといてですね、次なる情報戦を現在展開中でして」



「次の情報戦?」



「ええ。博さん、あれを」



「はっ」



 沙羅が博文に持ってこさせたもの、そして次なる情報戦とは・・・・・・




 つ



 づ



 か




 ない
















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