杉下さん
ここで今一度、沙羅が転生した経緯を振り返ってみよう。
沙羅「戦死した。なんか変な神に会った」
変な神「若くして死んでかわいそうだし、好きな転生先選べ」
沙羅「じゃあ米国大統領になってチートするンゴ」
変な神「行ってら」
沙羅「ヒャッハー、黄禍論者とナチは消毒だー」
ざっくり纏めるとこんな感じである。
「本当にざっくりですね」
「まあだいたいそんな感じだし」
博文もここ最近、ほぼほぼ沙羅と一緒にいて前世の話を聞かされるので、未来のスラング等をだいぶ覚えてきていた。
と、そんな話をしていた所へ件の転生者、杉下が現れる。
「おや、今日は若い男連れですか?」
「ああ、これは私の小間使いのようなものでして」
「誰が小間使いですか。はじめまして、私はこちらのエリザベスの秘書官を務めております、井浦と申します」
博文が名刺を差し出し、杉下も返す。
挨拶を終えると三人は街から離れ、沙羅の家へと向かう。
東京府東京市向島区 エリザベス・ジョンストン私邸
この世界の帝国には特高警察のようなものもいないが、帝都の街中で前世や何やの話をするのは流石に頭がおかしい人らだと思われかねないのと、沙羅は前合衆国大統領として日本人にも顔が知られているので、セキュリティ面の問題で沙羅の自宅で改めて話をする事とした。
「博さん、お茶入れてくれる?」
「はっ」
「どうぞお構いなく」
博文がお茶を入れ、一息ついた所で本題に入る。
「あの、沙羅さんから聞きましたが、杉下さんも転生者なんですよね?」
「はい。私は今から40年程後の前世から転生してきました」
彼も沙羅のいたあの世界で、昭和の終わり頃に亡くなりこの世界へ転生してきたのであった。
「杉下さんもあの神に会ったのですか?」
「は?」
沙羅は自らの転生の経緯を杉下に説明する。
「いや、私はそんなのではなく気付いたらこの時代というか世界に・・・・・・あなたが転生者だと言う事は報道にあった言動等を見て何となく、この世界、時代の人じゃないなと分かっただけですし」
「そうですか・・・・・・そう言えば前世で亡くなったのは昭和の終わりですよね?差し支えなければ、お幾つまで・・・・・・失礼ですが」
「あ、いえ、いいんですよ。あの大東亜戦争、死んでも帰れぬ地獄と言われたニューギニア戦線からなんとか生きのびて帰って、戦後はとにかくがむしゃらに働いて、子供達も立派に育ってくれて・・・孫の顔も最後に見る事ができた。80迄生きる事が出来ました」
「では元々この時代を生きた方でもあるわけですね・・・・・・」
「ええ、転生した当初は驚きました。記憶では一応は勝ったはずの日露の戦は日本が負け、欧州大戦や昭和恐慌後の帝国政府や軍部の方針も前世とはまるっきり違うものでしたから」
「私達の知るあの大東亜戦争はこの世界では起こりませんでしたが、日本が二度の世界大戦を連合国として戦い、ヨーロッパで少なくない犠牲を払った事は、英仏を中心とする欧州列強や合衆国内にも根強く残る人種差別的な思想に一石を投じるものとなりました」
「それは確かに感じています。それに日本人自身が鈍感なのは疑問ですが」
「それは私のせいです」
「どういう意味ですか?」
二度の世界大戦で陸海軍の総力を結集し、欧州列強、そして合衆国にその力を認めさせた大日本帝国。
今や名実共にアジアの盟主となった日本であるが、国民にその実感は薄く・・・・・・沙羅の言う私のせいとは一体・・・・・・・・・
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