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2020/02/03 00:51

 真っ白の表紙の本に目を通す。

 相変わらず、何が書いてあるのか理解はできない。

 そして、その本は背表紙が真っ二つに避けていて、その断面には固定するための糊付けされた後が不規則に上から下まで並んでいた。

     はそこをセロテープで補強し、ページがバラバラにとんで行かないようにしていた。


 うっすら香ばしい珈琲の匂いがして我に返った。

 カウンターテーブルに珈琲と領収書が置かれているのに気づいた。ロングの髪を後ろに一つで束ねたお姉さんが別のテーブルへと歩いていくのを目で追う。彼女はそれに呼応するように肩越しに振り返り笑みを浮かべた。

 格好がいい女性だった。(特徴略)

    は同級生にはない、その佇まいに憧れを持っていた。

 もちろん、珈琲はおいしい。雑誌に書いてある”フルーティな味わい”が舌に残って微かに消えゆく感覚はこの店独自のものだ。

 それとは別に。


    は白い本にもう一度目を通す。

『拳銃を購入する方法』

 今日はそれを実行するために、ある駅へ行く。

 公衆電話からとある番号にかけると、○○駅の13番出口のタバコ屋の前にあるロッカーに携帯電話が置いてあるのだという。

 その電話を使って、声の主に拳銃のオーダーを行うというのだ。

(あほらしい)

 文芸部の部室整理時に出てきた、同人誌であろう無記名の本は、皆の注目を浴びた。「ハードカバーの同人誌だって!!!」と副部長が驚きの声で叫んだ。ハードカバーの同人誌ってないのか、   にはわからなかった。内容は荒唐無稽だが、文章は理路整然と体系化されていて、何が書いてあるか一言で言えば、書籍版「ダークウェブ」だ。

 小難しく、それっぽく書いてあるだけの妄想駄文だと思った。

 今日はそれの効果検証をしに来たと言うわけだ。


 それとは別に。

 拳銃よりもミステリアスなお姉さんが板床を横切って調理場へと歩いていく。彼女の年齢や、経歴に興味があるが、目に見えない薄壁がその好奇心に立ちはだかる。ストーカーになるのは絶対に嫌だ。

 会話だ、ほんの小さなきっかけで閉じられた世界が開く気がした。

 色々と考えが頭を巡り、それらがぶつかりあって塵になっていく。

 そうして、何も言えず5度目の来店になっていた。


 そのとき、電話が振動した。

 副部長からの着信だった。後でかけ直します、と言おうとして

 受話器に耳を当てた時、思わず外へ駆けだしていた。


(ま・・・マジで拳銃あった。重いよ、これ絶対に本物だよ。ど、どうしよう)



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2020/02/03 01:28


 カフェを出て、階段を降りた先が改札口だった。そこをICカードを使って抜けた後、電車に乗り込んでから大事な事に気づいた。

(鞄と、代金を払うの忘れた!!!!!)

 急いで戻ろうとしたが、電車の扉は閉じられ、ゆっくりと出発しはじめた。   は驚いた。駅のホームに   の鞄を持ったミステリアスなお姉さんが駆け足で降りてきたからだった。

 お姉さんは   に気づくと、手を大きく振って、人差し指で鞄を指し示した。    は為すすべなく、冷たいガラス窓に顔を押しつけて遠ざかっていくホームを見つめるしかなかった。



(・・・・・・)



 今日で来店は五度目、お姉さんが心配そうな顔で鞄を持ってきてくれた。電話を取り上げて、無我夢中で走り出した様を見て、何か緊急だったと解釈してくれないか、じゃないと無銭飲食、食い逃げ野郎だ。


 何度も何度も、贖罪のいいわけが頭をぐるぐると回る。


 電話がなった。

 副部長からだ。

 冷静に考えると、おもちゃの拳銃の可能性が高い。そうに決まってるし、それ以外にありえない。ミリタリーショップかなにかに繋がってたのだと思う。エアガンで良いものは本物と同じ重量だと聞いた事もある。

「(今、電車の中なので、後でかけなおしていいですか)」

「あの、お友達の方?」


 聞いた事のない、無感情な男の声だ。初めて聞く声。


「(はい。あの、誰かわかりませんが、電車の中なので、また後で」

「△△署の捜査一課まで来てくれない? ○○まで。なるべく急いで」

(△△署? 何で? 玩具の拳銃持ってたのを見つかっただけで職質されたのか?)

「お前の仲間が駅の構内で拳銃撃ったんだよ!」

「はあ!!!!!!!!!」


 大声で思わず、聞き返した。

 電車の中の誰もが    の方を冷たい目で見ていた。

 一変した空気の重圧に耐えかねて、隣の車両へと移動した。

「その反応じゃ、やっぱりこいつの言う事が正しいのかな? 本に書いてある通りにしたら、本当に拳銃が置いてあったっていう供述は」

「信じてもらえないかもしれませんが、本当なんです。本も持っています。あの、僕らどうなります? 犯罪者とかになりますか?」

「あんたの友達は、撃っちゃったからねぇ。下手すりゃ誰かが死んでたかもしれないし。一応言っとくけど、逃げるなよ。お前の住所とか学校も全部、友達しゃべってくれたから」


 警察の男の声音も段々と、荒い、犯罪者を扱う者の声に変わっていた。

2020/02/03 01:54

「文芸部、一同。総力を上げて副部長を救出したいと思います!!」


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 取り調べを受けて返されたのは主人公だけだった。

 副部長は銃刀法違反で逮捕された。

 白い本の書いてある通りに警察が試してみたが、何も起こらなかったからだ。白い本は没収された。主人公はコピーをとっており、内容は手元にあった。


 副部長の過失を証明して、減刑、釈放を要求すべく

 拳銃をおいた主を見つけださなくてはならないが、拳銃を調達できる人間相手に、高校生の主人公達には危険すぎる話だった。

 副部長の退学は確定事項らしい。


 ある部員は副部長の事が好きなので助けたいと思っている。

 彼女は主人公を強引に巻き込んで独自に捜査に動き出す。

 一方、主人公は鞄を返しに来てくれたカフェのお姉さんに驚く。

 鞄の中に、学生証が入っていたらしい。

 お礼も伝え、代金の支払いが遅れた事をわびた。

 お姉さんのカフェには問題があるようだ。

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