並み居る医者たちの誘いをもれなく断り続け、後輩から心配されている看護師長、千佳。そんな彼女が冬服を全部引っぱり出し、一着を選び抜いた果てに向かった先は——弟の友人である歳下男子、森下正樹との初詣だった。正樹へは友人以上の思いを感じている。彼との時間に思うところも多々あった。彼女は揺らぐ心の奥で、そっと決意する。
気になる人というものは、恋人でも他人でもない存在ですね。だからこその距離感があって、千佳さんはあれこれと思い悩むわけです。
師長さんといえばけして若い女子ではありませんし、それこそ相手が弟の友人ですし。本作はこのあたりの「微妙さ」がすごく濃やかに描かれていて、だからこそ彼女の今ひとつ踏み出しきれない心情がこの上なくリアル。言い換えるなら、切なさになりきれない心の靄めきとなりましょうか。その叙情、乙女心にビンと突き刺さります! ええ、わたくしはおじさんですけどね!
ひとりの女性を等身大そのままに綴る恋愛未満劇、悶えるご用意を済ませてからお読みください。
(「行く年と来る年と」4選/文=高橋 剛)