第3話 方針

「さてっと」


 無事に俺たちはグランドラへと辿り着くことが出来た。が、問題がある。

 この場所が何処か、どんな場所なのかまるで分からない。俺たちの最終目標は魔王を倒すことだが、この場所が魔王のいる魔王城からどれだけ離れた場所かも見当もつかない。


「なんでちゃんと場所が指定されなかったんだ?普通人間を送り出すとき、幸先よくする為に魔王城から離れた、まだ侵略の進んで無いような町に送り出すだろ?なんで私たちはこんな森の中の、しかも上空なんだ?」

「あの女曰く、神を正確に送り出すには人間を送り出すよりもエネルギーが必要らしい。それじゃ本末転倒だから何処に出るか分からないけど頑張ってだとさ。」

「主神のくせに本当にケチくさいな。」


 まあ、人間と違って俺たちなら多少のことでは死んだりしないが、、、深海とかに出てたらどうするつもりだったんだ。


「とにかくまずは人のいる場所を見つけないと始まらないぞ。アラン。」

「ハイハイ。」


そう言って俺は右手で地面に触れ、能力の一つを発動した。


「———『グランドフォロー』———」


 『グランドフォロー』。この技は俺の能力によって地面を通してそこに立つ生命力や『魔力』を探し出す。範囲は大体半径1km。

 この場合、周りは森のため、動植物による生命力で溢れている。その中から人間の物だけを探し出すのは難しい。よって、今回探し出すのは人間の魔力だ。

 人間は、個人差があれどすべての者が魔力を有している。そして魔力は種族によって性質が大きく異なる。今回はこの性質を利用する。だが、、、


「、、、俺の能力が届く範囲に人間はいないな。」

「そうか。参ったな。」

「ああ、さっき空から見たところ、人の集まるような集落らしきものも見当たらなかったしな。」

「野宿確定か。」

「だな。」


 とりあえず俺たちはその場から歩き出した。歩きながらこれからの方針を話し、1kmほど歩いたらまた俺の能力で周りに人間がいないか確認する。これの繰り返しだ。


「まず俺たちがしなければならない事は何かわかるか?」

「、、、寝床の確保か?」

「いや、そういうのじゃなくてだ。魔王を倒すためにどうするべきかって話だ。」

「適当に魔王軍を倒して行くのじゃダメなのか?」

「いや、別にそれでいいんだが何よりも優先すべきことがある。それは『信仰心』の確保だ。」


 『信仰心』。神々の強さに関係する要素の一つだ。基本的に多く信仰されている神ほどその力は強い。

 俺もエリカも、神界の神達は例外なく、地上界で一定の信仰を得ている。俺の場合は『自然』の神だから、豊作祈願などや、災害を避けたいといった者たちに信仰されている。『力』の神であるエリカはわかりやすい。

 問題は、この世界ではその元々の信仰心がほぼ意味のないものになるということだ。というのも、地上界からの信仰は神界にまで影響し、俺たちの力になるが、今現在別世界にいる俺たちには、その信仰は影響しない。

 つまりこの世界での俺達は信仰による恩恵がゼロになり、その力は弱体化してしまう。


「もともと俺たちが信仰されている世界だったらヌルゲーだったんだが、生憎この世界では俺たちは全く信仰されていない。」

「必要か?」

「ああ、アーテルはこの世界の魔王は比較的強いと言った。本来の力の俺たちならともかく、弱体化している今なら逆にヤられる可能性もある。」

「えぇーー。」


 エリカは俺のその話を聞くと不満げに口を尖らせた。確かにこいつはそういったチマチマした事は向かないだろう。なんならこのまま魔王城に直接出向いき、魔王を倒して一刻も早く神界へと帰りたいはずだ。


「ま、そう難しく考える必要もない。ちょうどいいことに今この世界は危機に瀕している。お前が言ったように魔王軍を倒して行けば、救世主として勝手に信仰も溜まるだろ。」

「それに、魔王を倒すまで帰れないんだろ。逆に考えれば、それまで俺たち本来の仕事はしなくていいんだ。旅行にでも来たと思えばいい。のんびり力を貯めて、本来の力に近づいたところで魔王をボコろうぜ。」

「旅行って言ってもほとんど島流しだぞこんなの。」


 そうやって三時間ほど歩き日が暮れてきた時、俺はまた何度目かの能力を発動した。すると———


「この辺は食えそうな動物があまりいないな。まあ物を食べなくても俺たちは死なな———!」

「ん?どうした、何か見つけたか?」

「いや、あと400mほど歩けば森を出る。んでその先にかなりの数の人間が集まっている。これは、、、町だな。結構大規模な。」

「おお!よかったじゃないか!なんとか野宿はま逃れたな。」


 そう、かなり大きな町を見つけた。だが俺が気になっているのはそこではない。


「俺たちの東側に魔力の集まりを感じる。、、、人間じゃない。魔物だな。」

「!?」

「能力の範囲を絞って東側のみを感知する。」


 俺を中心に円状に感知していたのを、今度は東側のみに集中し、その方角だけを広範囲に感知した。


「、、、魔物の軍勢。数は500、550ぐらいか。かなり大規模だ。こいつらおそらく夜になった瞬間町

を襲う気だ。」

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