第2話 理由
「貴方達には、ある世界を救って欲しいの。」
女神アーテルは目の前の二柱にそう告げた。しかし、アランとエリカはその言葉の意味が分からなかった。
いや、言いたいことは理解できる。ただわからないのは、何故そんな事をわざわざ呼び出してまで告げられたのかということだ。なぜなら彼らは———
「それはあれか、、、あれですか?いつもの転生作業とは違うのですか?」
転生作業。それは神々の最も重要な役目の一つである。神界とは別の人間が暮らす世界。地上界は複数存在する。そして、その世界の中には、どこからか現れた魔王や悪魔に侵略を受け、荒れ果てた世界も存在するのだ。
神々の役目とは、その侵略を受けている世界へ、別の平和な世界からいわゆる『勇者』の適正を持つ人間を選出し、転生させ、その世界を救ってもらう。及びその勇者の戦いをサポートすることだ。
俺やエリカも長く生きている分、百回近く勇者を送り出し、世界を救っている。つまり、厳密には直接行っているのは勇者だが、世界を救うなんてこと、俺たちにとっては本当に今更のことなのだ。
———何故わざわざこの女神は俺たちにそのようなこと言う?
「私が言っているのは貴方達が普段行なっているものとは別。つまり私が言いたいのは———」
「貴方達自身の手で直接、世界を救って頂きたい。」
「「はぁ!?」」
「その世界の名はグランドラ。数年前から魔王による侵略を————」
「ちょ、ちょっと待て!!」
勝手に話を進めるアーテルに、エリカは口を挟む。それもそのはずだ、あまりにも話が急すぎる。
「世界を救いたかったら人間を使えばいいじゃないか!!わざわざ神の私達が手を下さなくとも、地上には勇者の候補者が沢山いるだろ?」
沢山と言うほどではないが、確かに今現在地上界には勇者となり、世界を救う素質を持つ者が存在する。ここ神界の書庫には、今生きている勇者の候補者、過去に勇者となった者、これから生まれるであろう者のリストが保管されている。
———人間を使いたくないのか?神を使ってまで人間を転生させない理由——
「そのグランドラという世界は、、、人間には救うことができないほど、魔王の力が強力なのですか?」
「いいえ、そういうわけではありません。確かにこの世界に現れた魔王は比較的強力です。ですが、過去にはこれ以上の力を持った魔王を倒し、世界を救った者の事例もあります。」
「じゃあなんで私達が!!」
「それは、、、」
ようやくアーテルは理由を話そうとした。わざわざ神が出向かなくてはならないほどの理由とはなんなのか。
「出費が大変多いからです。」
「は?」
「あ?」
彼女の言葉に二人は耳を疑った。さっきからこの女神は何を言っているかわからない。
「貴方達は他世界から勇者を選出し、他世界へと送り込む。この作業にどれだけの時間と労力、費用が掛かるか分かりますか?」
「えぇっと、、、」
「数少ない適正者を見つけ出し、多次元繋ぐワームホールを発現させ神界へと勇者を招く。その後説明をした後また目的の世界までワームホールを繋ぐ。」
「一つのワームホールを発生させるためにも多大なエネルギーと予算を使います。」
「それだけではありません。転生者がいない間、元の世界ではその者の代わりとなる神を用意しなければなりません。これには多大な人件費を用います。代わりとなってもらう神には勇者が世界を救うか死ぬまでの間、地上界で生活してもらうわけですから。」
ちなみに勇者が転生した世界で死んだ場合、神界で保管していた魂と元の肉体は、元いた世界へと還される。もちろん勇者であった記憶は消して、変わらに転生していた期間分の記憶を、変わり身の神から植え付ける。
「今神界は小さな財政難なのです。まだ表立ってその様子は出ていませんが、このまま人間を使って世界を救い続ければいつか破綻します。」
「そこで私は提案したのです。人間を使わずにいっそ神を直接放り込んで世界を救済すればいいのでは?と。」
「そうすれば人間を選出する必要もなければ変わり身の人件費を払う必要もない。使用するワームホールはここから目的地までの一つで事足ります。」
「世界一つ救うんだからケチんなよ!!」
エリカが不満げに文句を垂らした。というかこいつは主神に対してもタメ口だな。俺でも敬語を使っているのに。
「、、、人間を使わない理由はなんとなくわかりました。ですが何故俺たちなんですか?」
「そうだそうだ!私達何もしてないぞ!」
エリカのその言葉にアーテルはピクリと眉を歪めた。
「何もしていないですか。ではアランさん。」
「貴方、先日転生させるはずだった人間に手を出して結果、その人間を送り返してますね?」
「!?」
アーテルのその言葉に俺はドッと冷や汗が流れた。
そう、あれはほんの2、3週間前。俺はある人間を神界へと招き、勇者として転生させる予定だった。
しかし、その人間は「転生させてもらうなら女神が良かった。」「男の神なんてお呼びじゃねぇんだよ!!」「チェンジでぇ!!」などと訳の分からない事を言い始め、神である俺に散々悪態吐きまくった。
それにキレた俺はその人間を気絶させ、元の世界へと送り返したのだった。
——何故バレた!?その後別の人間を送り出したし、その件を知ってる他の神どもには念を押して口を封じたのに!
「せっかく選出した人間を一人ダメにしたどころかワームホールを一回無駄に使い、さらに貴方はこの事を報告せずに隠蔽した。」
「この責任を取るとなれば、貴方の今の神格も危うくなりますが?」
「、、、、」
言い返すことができなかった。俺は神界でもそれなりの神格を有している。それを剥奪されるなんてことがあったら、、、想像もしたくない。
「ハッハッハ。真面目に仕事しなきゃダメじゃないかアラン君?それじゃっ、話も終わったことだし私は帰らせていただく———」
「いいえ貴方もよエリカトル。先日、この神界の地上から巨大な球体が衝突し、この神殿の一部を破壊しました。」
「!!?」
「飛んできた方向見ると、そこに酔い潰れた貴方と、近くには一部が破壊されたオブジェがありました。」
そのアーテルの言葉でエリカもまた全身に冷や汗をかき始めた。
———こいつ、また泥酔いして身の周りを破壊したのか。しかもその破壊した一部を運悪く神殿の方向へ投げつけたのか。
「それだけではありません。今まで貴方が酔って破壊した数々の施設や建物、貴方はこの被害額を全て払えますか?」
「、、、、、」
「これで分かりましたね?貴方達に拒否権はない。主神アーテルが命じます。『自然』の神アラン、『力』の神エリカトル、貴方達はグランドラはと行き、その世界を救ってきなさい」
「「、、、」」
こうして俺たちは強制的に地上界へと下ろされた。
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