第693話 問題点〈スティールガン〉


 異星生物の施設を出ると、入り口に設置されていた隔壁を封鎖する。施設の完全閉鎖が完了するまで時間があったが、外部から侵入できる箇所はすべて封鎖してもらうことにした。


 しかし施設の封鎖が決定しても、施設を警備する設備や機械人形たちが動作を停止することはない。侵入者から施設を守るため、専用の自動整備区画は稼働し続けるようだ。


 施設の外に出ると、赤と白の縞模様で塗装された作業用ドロイドが一箇所に集めていた変異体の死骸を焼却することにした。水棲生物の死骸は山のように積み上げられていて、すでにネズミらしき生物と大量の昆虫が群がっているのが見られた。ひどく気色悪い光景だったが、放っておくことはできない。


 それらの腐食動物に死骸の処理を任せても良かったのだが、かれらを餌にする別の生物を引き寄せる可能性があったので、それを避けるためにも死骸はすぐに焼却しなければいけなかった。


 火炎放射によって無数の死骸の山が炎と煙に包まれていく。暗闇に向かって勢いよく立ち昇る黒煙を眺めていると、不気味な咆哮が聞こえてくる。腐肉が焼けるニオイに反応しているのだろう。防衛設備が水棲生物の襲撃に備えて迎撃態勢に移行するのが分かった。


 破壊されていたレーザータレットやセントリーガンを修理していた機械人形は、すぐに安全な場所まで撤退し、武装したアサルトロイドや多脚戦車サスカッチ、それに人型機動兵器オケウスが前に出る。


 網膜に投影されていた〈ナノメタル〉とのシステム統合までの予測完了時間を確認したあと、地図を開いて敵の数を確認する。


 すでにアルファオスが倒されていたので、大規模な襲撃はないと考えていたが、カグヤのドローンによってタグ付けされた化け物の反応で、地図が赤い点で埋め尽くされていくのが見えた。別の大型個体に率いられた群れの襲撃なのかもしれない。


 そのなかには、保安システムが起動した工場から逃げ出してきた個体も含まれているのかもしれない、変異体の数は見る見るうちに増えていった。


 大気を震わせる鈍い射撃音のあと、多脚戦車から発射された閃光が前進してくる化け物を跡形もなく消滅させていくのが見えた。が、それでも敵の勢いは止まらない。次から次へと殺到してくる。


 接触まで数百メートルの距離があったが、ライフルの弾薬を〈自動追尾弾〉に切り替えると、銃弾が底を突くまでフルオート射撃で銃弾をばら撒いていく。銃身が赤熱し白煙が立ち昇るようになると、ライフルを背中に回し、施設で手に入れていたハンドガンのシステムを起動する。


 あの奇妙な水棲生物は硬い鱗におおわれていたが、〈スティールガン〉の貫通力があれば問題なく対処できるだろう。


 セイウチじみた胴体を引きるようにして、猛然と迫ってくる化け物の咆哮や呻き声が暗闇の向こうから聞こえてくる。ハンドガンを構え、息を呑みながら暗闇を見つめていると、スイレンがとなりに立つのが分かった。彼女は白いライフルを変形させると、落ち着き払った仕草でライフルを構え、暗闇に向かって射撃を行う。


 赤い熱線がまたたくたびに、おぞましい生物の群れが暗闇のなかに浮かび上がる。すでにそれなりの数の化け物が戦車によって処理されていたが、数が減ったようには見えなかった。複数の群れが一斉に攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。


「カグヤ、施設の防衛設備は動いてくれるのか?」

『もう敵を捕捉したから安心して、射程範囲内に侵入した時点で攻撃が始まる』


 彼女の言葉のあと、地面に収納されていた兵器コンテナが展開していくのが見えた。その四角い装置はミサイルコンテナにも見えたが、発射されたのはミサイルではなく、拳大のドローンだった。


 球体型のドローン群には切断用の〈ナノワイヤー〉が搭載されていて、赤く発光する鋭利なワイヤーによって化け物の身体からだが次々と切断されていくのが確認できた。


 セントリーガンも起動し、接近してくる標的に対して一斉射撃を開始する。騒がしい射撃音が暗闇に木霊し、レーザータレットから撃ち出される熱線が周囲を赤く染めていく。


 自律戦車は重々しい足音を響かせながら前進し、容赦なく化け物を踏み潰していく。その多脚車両に化け物が群がると、レーザーガンで武装したアサルトロイドが接近し、無防備な変異体を射殺していく。


 これまでもそうやって何度も変異体の襲撃を撃退してきたのだろう。警備システムは無駄のない確実な攻撃を行いながら、我々を包囲しようとする群れに的確なダメージを与えていく。


 それでも施設に接近する変異体が出てくるようになると、床から格子状のレーザーが投射され化け物を細切れにしていく様子が見られた。トラップとして機能する〈レーザー・グリッド〉が起動したのだろう。


 順調に群れの数を減らしていたが、セントリーガンの爆発によって状況が変化していく。暗闇の向こうから次々と投げ込まれる瓦礫や鉄板によって、周囲の防衛設備が破壊されていくのが見えた。敵の反応を追うと、大型個体が接近して来ていることが分かった。どうやらアルファオスが防衛設備を優先的に狙って攻撃しているようだ。


 頭上を通り過ぎていく無数の瓦礫を見ながらスイレンに掩護えんごを頼むと、大型個体に向かって駆け出す。多数の変異体が迫ってくるが、鉄杭を撃ち込んで対処する。


 発射された鉄杭の回収を後回しにして、とにかく飛び掛かってくる化け物に鉄杭を撃ち込むことに集中した。その威力は凄まじく、至近距離で攻撃を受けた水棲生物の胴体には手のひらの幅ほどの穴が開いて、あちこちに体液やら肉片が飛び散っていく。


 もちろん、すぐ後方にいた化け物もタダじゃすまなかった。硬い鱗だろうが、太く頑丈な骨だろうと鉄杭は容赦なく粉砕し貫通してみせた。


 銃弾になる鉄杭を打ち尽くすと、突進してくる化け物に銃身を向けたまま鉄杭の回収を意識した。間を置かずに鉄杭が勢いよく戻ってきて、すぐ目の前にいた化け物の身体を破壊しながら回収されていく。興味深いことに、鉄杭は発射された順番で回収されるのではなく、距離が近い鉄杭から回収されるようになっていた。


 銃弾の回収を意識すると、あとは自動的に適切なタイミングで銃弾が回収されるので、敵の動きを警戒しながら攻撃を続けることができた。鉄杭が発射される瞬間には、別の鉄杭が回収、装填されているのだ。だが、もちろん欠点はある。装弾数は三十発なので、鉄杭の回収が追いつかなくなると、攻撃できない時間ができてしまう。


 その隙を突いて化け物が飛び込んでくる。スイレンの掩護射撃によって難を逃れたが、頭部を吹き飛ばされた化け物の胴体から噴出した血液を浴びることになった。これが腐食性の体液ならマズいことになっていただろう。


 気を取り直して大型個体に接近する。走っている間も鉄杭の回収は続けられ、あとを追ってきていた数体の化け物を巻き込むような形で、かれらの肉体を破壊することができた。


 たしかにそれは便利な機能だったが、仲間が近くにいるような状態では使いづらいのかもしれない。そう考えたときだった、すぐに合成音声が聞こえてきて、安全装置についての説明が行われる。どうやら敵味方を識別する機能が備わっていて、絶対に味方に被害が出ないようになっているらしい。


 大型個体に接近すると、間髪を入れずに鉄杭を撃ち込んでいく。化け物のうろこが砕けて飛び散り、肉に食い込んだ鉄杭が内臓を破壊していく。だが、鉄杭がもたらした破壊はそれだけだった。銃弾は化け物の体内に残ったまま貫通することがなかった。


 すぐに鉄杭を回収しようとするが、そこで別の欠点に気がつく。今回の相手のように敵が強靭な肉体を持っている場合、筋肉や太い骨格に阻まれて銃弾を回収することができなくなってしまうようだ。

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