第154話吉報とはいえ面倒また増えて

 一か月半ぐらい時間的猶予はある。


 と、思いたいとこだが、相手が行く気ならば十月入る直前には既に王都出てきてるだろう。となると余裕見ても三週間かそこら。


 書簡でのやりとりで確認や詳細把握する暇なぞないな。互いに返事を一日で書き上げたとしても一往復するまでに相手が来てるかどうかの段階だわ。


 かと言って大事とはいえ一大事というわけでない。恐らく王宮内の連中と将軍の間で話はある程度ついてるのだろう。俺が一々口挟む余地もなさそうなのだ。


 ならば腹を括って出迎えるしかあるまいよ。


 案内やご機嫌伺いはガーゼルらヴァイト州在住魔族に任せるとして、遠路遥々やってくる公的身分高いお客さんを可能な限り失望させないよう努める必要ある。


 とりあえず、まずは宿だな。


 間が悪いというか当たり前と言うか、この時期になると州都内にある宿は州の各地から来る客相手に忙しくなりだす。


 しかも宿を一か月以上前から予約する。という考えが一般層に広まりつつある。


 俺とかが教えてるわけでなく、去年の大会見物の際に実感して学習したのだろう。


 身分高い者や富裕層に属する者などは割とやってる事。事前予約という概念は昔からあるのでそれ自体は驚く者はない。


 庶民はそもそも近隣の村や町へ出ても日帰りか途上で野宿。もしくは行先に住まう身内か友人知人の家に転がり込んで一、二泊するのが関の山。宿に使う金も惜しむなんてのはよくある。


 長旅するにしても予定通りに行くか不分明な旅をする故、基本旅先での宿は飛び込み一発勝負だ。予定を決めた上で前々から予約などという悠長な行為はしない金や時間的余裕からして。


 体験して学ぶのは良い事だ。予約とか約束を守るとかは大切だしな。些細なとこでも民度を高められそうな種は称えるべきだな。


 しかしその所為でこういう時に少し困るというのもなぁ。


 相手側が如何程の人数で来るかも分からんが、昔読んだ資料や王都時代の見聞きした情報を基にして予測すると、使節団の規模はざっと二〇〇から三〇〇ぐらいだろう。


 それこそ今年の春ぐらいに分かってたら事前に宿を押さえられたんだが、現状それなりのクオリティで大人数収容出来る宿なぞない。


 権力使って予約客を立ち退きさせる真似は絶対しないぞ俺。


 この世界の常識で言うなら天秤はフォルテ将軍側に傾くだろうが知った事ではない。思い付きでいきなり(厳密には違うが)来る方が間違ってるんだからな。


 かといってその言い分で突っ張るのも間違いだ。外交の一環という意識をちゃんと持って向き合う案件だ。


 宿に関して、俺は建設途上の兵舎の一つを早急に完成させてそこに彼らを押し込むことに決めた。


 来客出迎えるには殺風景だが野宿やボロ宿よかマシだろう。新築の建物で寝泊り出来るだけありがたいと思ってもらうしかない。


 その分の埋め合わせをすればいいだろう。


 今年使う予算の予備分から幾らか出して滞在中の食い物や酒を上等なモノ出すとか、手土産に何か良さげなものを用意してやるとか。


 あぁそうだ。確か格闘技大会目当てだったな。ならば今年の最前席か貴賓席を確保して提供するか。宿と違ってチケット販売開始前で助かったわ。


 次は州都内に関してか。


 俺の衛生関係の施策のお陰で他所の地域よりかは街も住民も以前より綺麗になったかもしれんが、大会時期見越して更に推し進めるか。


 州都内の清掃巡回の回数とその為の人員増やす。州都外から来る者対象に臨時銭湯設けて無料で入浴してもらって身綺麗させる。など、あまり無理なくやれる事をしよう。


 勿論宿泊先も注意を払って小まめな清掃を心がける。怪我はともかく病気にならないように気を付けさせないとな。


 治安の方も兵の一部割いてもいいから来訪時期ぐらいから警備を強化して少しでも不埒な輩を取り締まる。あり得るとは思わないが狙い定めた襲撃だって起こらないと言い切れん。


 ただまぁ、油断はする気はないとはいえ衛生と比べたら難易度は低い。


 何故なら治安に関して言うなら俺は他より安定させている自信と実績があるからだ。


 此処に到着するまでの間に将軍一行は通過する州の現状を目にする事になる。


 王都の連中が諸国に自国の悪いとこ目につかないよう配慮する為に何かするだろうが、全て隠しとおすのは不可能であり、連中の下々の者軽視っぷりからして州都など大勢人の居る場所の取り繕いでもやればマシだろう。


 一年前ですら怪しかった。その間に流れてくる情報でも改善の話は聞こえてこない。それどころか地方では民衆蜂起や賊の勢力化が湧き出てる始末。


 多分だが、ケーニヒ州や貴族の荘園地帯までは見栄張りして平和と繁栄を見せつければ、後はどこにでもある事と思われるようにしたいのだろう。フォルテ将軍とやらがどう思うかは別として。


 悪い方見た後にウチを見たら少なくとも見てきた所よりマシぐらいには思ってくれる筈。


 他の下げ具合をダシにしてるようだが、当たり前のことを当たり前のように出来てない他州が悪い。俺は精々阿呆共の失態を利用させてもらうさ。


 あとはあれだな、大会前で多忙とはいえ、ささやかでもいいから俺も顔出した宴席の一つも設けて歓待する準備もしておくか。


 国から早急に何も命令も来てないし、あちらもあくまで民間に居る同胞に会う為なのが主目的。


 過度にやりすぎて媚び諂いしてるよう思われ、もしそういうのがお嫌いな性分なら寧ろ悪印象与えかねないのなら、これぐらいの備えでいいかもな。


 後は来るまでに用意終えるよう注視しとこうか。


 やれやれ、あちらさんも左程深い意味ない訪問とはいえ、此方に無駄な仕事増やさす真似は勘弁してもらいたいよ。





 急な仕事発生しつつも打てる手は打ち、なんとかなるだろうと思いながら日々の仕事をやりくりしていく。


 これ以上あまり余計な出来事とは無縁でいて欲しいという小市民な願い。


 なんなら大会終わるまでどころか今年はもう特に何も起こらず通常業務を淡々とこなすだけの地味な日々でいい。今年の半分がイベント起こり過ぎなんだよ。


 しかしながら規模の大小に関わらず、事というものは起きてしまうもの。


 それを実感させられる出来事がまた一つ、多忙な最中にやってきた。


 魔族の国からやってくるお客さんへの対策を考えて役人らに指示を下して数日後。


 その日も俺は執務室にて通常業務と大会に関する事柄に関しての業務の二つに携わっていた。


 暇そうに居眠りするマシロとクロエを横目に、俺はターロン、モモ、平成を迎えて報告を聞いていた。


「新たに加わる部族側から誠意見せるということで一五名こちらに向うという手紙が来た。到着次第部族部隊の一員として加えるつもりだ」


「で、加入後に私兵部隊と合同訓練する予定です。私らも最近は州都庁の警備以外やる事無いですからな。軍隊として動くにはまだまだ鍛える余地は双方ともにありますし」


「僕はあんまり参加したくないんですけど。というか見学させて欲しいかなぁって」


「ヒラナリ、お前はもう少し鍛えるべきだ。その消極的な態度叩きなおしてやりたいぞ今すぐにでも」


「まぁまぁそこはお手柔らかに頼む。平成は一般人に毛が生えた程度なんだからキツイんだろう。俺も気持ち分からんでもない」


「節令使殿、あまりコイツを甘やかすといざというとき己の身を護ることもだな」


 いつものように報告がてら他愛ない会話をしてたときである。


 ドアを叩く音が室内に木霊する。


 寝てるのか起きてるのか分からないマシロとクロエを除き、俺らは会話を止めてドアの方へ視線を向ける。ターロンが「何事か?」と誰何の声を上げる。


 声からから数秒後に返事してきたのは扉前で護衛をしてた私兵部隊の一人だった。


「お話し中申し訳ありません。下に居た受付の者が至急お取次ぎ願いたいと申してきたので」


「本日節令使様は何方とも面会する予定はない筈だが。どこの誰が何用か聞いているのか?」


「は、はい。実はギルドマスター様がすぐにでも節令使様に知らせたい事があると訪ねてきてるようでして」


「……」


 その返答に俺らは顔を見合わせた。


 はて何用だ。


 双頭竜の素材支払いに関しては、ヴァイト州ギルド分は八月中に終えてるし、商都及び王都の方は今月末に船便で買い取りしなかった素材と共に届く知らせ聞いたばかりだ。


 マシロとクロエが何かやらかしたか?と一瞬思ったが、こいつ等帰還してから一度もギルドに顔出してないからそれはないな。


 かと言って顔出す様に催促しに来たわけでもなさそうだな。下手に機嫌損ねて辞めるとか言い出されるぐらいなら、他の冒険者達に不公平感味合わせても甘やかす方針だろうし。


 まぁヒュプシュさんが日も高いうちに自分とこの仕事放り出して此処に来たのだから何かあったんだろう。


 別に会う理由もないが会いたくない理由もないので、俺は応接室に案内するよう命じる事にした。


 軽く身だしなみを直し、ターロン達と露骨に面倒そうな顔するド畜生二人を引き連れて応接室へ足を踏み入れると、そこには先に来ていたヒュプシュさん及びギルド職員数名の姿があった。


「お待たせして申し訳ないギルドマスター。それで本日の」


「れ、れ、レーワン伯!!」


 俺の挨拶を遮り、ヒュプシュさんは興奮と動揺の混ざった顔色しつつ立ち上がり俺に迫らんとするも、傍に居た職員らに抑えられて踏み止まらせられた。


 いやなんですかあなた。内心少しビックリしたぞ今の。


 儲け話関係では多少の非礼押しのける勢い見せる御仁だが、これほどまでに狼狽してみせるとは、持ち込んだ話はそこまで只事ではないのか?


 訝しく思いつつも、職員らに宥められてるギルドマスターを横目に向い側のソファーに座る。他の面子は俺の背後に並ぶように立つが、マシロとクロエは俺の座るソファーの空いてるスペースに当然のように腰を下ろす。


 まぁいいか。冒険者ギルドの偉い人来たということはこいつ等関係の話だろうし。


 無反応に淡々と着席した俺を見てヒュプシュさんも少し冷静さ取り戻したのか、咳ばらいを一つして再び椅子に座りなおした。


「申し訳ございませんでした。つい興奮してしまい非礼を働きまして」


「何事ですかなギルドマスター殿。貴女をそこまで取り乱さすような凶報でも来たのですかな?」


 もしかして輸送予定だった双頭竜の素材と支払金にトラブルでもあったのか?まぁこの時代の文明クオリティだと輸送問題は何か起こるよな。俺にとっても損失ではあるが仕方がない面もあるか。


 と、想像した俺がそう話を振ってみたが、ヒュプシュさんは大仰に首を左右に振って否定する。


「ぎゃ、ぎ、逆です!き、吉報なのですよ!!とても、凄い、お話がですね!」


「分かりました。では訊ねる前に少し落ち着かれよ。折角の良い話ならちゃんと聞きたいものですしな」


 俺の言葉にヒュプシュさんは目を閉じて数度深呼吸を繰り返す。


 顔の赤みはそのままだが、呼吸は落ち着いたのか表情から浮つきは和らいでいた。


「……では、節令使様、そしてマシロさんクロエさんも落ち着いてお聞きくださいまし」


「はぁどうぞ」


「…………ですよ」


「はっ?」


「マシロさんとクロエさんが、え、Sランクに昇格させるという通知が本日届いたのですよ!!」


「……」


 伝える側は一世一代の告白するかのような気迫をもって告げたのだが、伝えられた側で素直に驚いたのは背後に居るターロン達ぐらいだった。


 ターロンは「ほほう」と軽い嘆声が発せられ、モモは「それは確かに凄いな」と驚きそのものな言葉を漏らし、平成「うわぁ、異世界モノあるあるのスピード出世だ」と感心しきりなコメントを唸ってる。


 で、俺も内心少し驚いたが表に出す程の衝撃はない。なにせ来訪告げられてからの短時間で予想してた幾つかの展開の一つが的中したに過ぎんからな。


 マシロとクロエに至っては自分らの事なのに心底どうでもいいのか、眉一つミリ単位で動く気配もなく、眠そうな顔して興奮しきりのヒュプシュさんを無感動に眺めてるだけ。


 幸いなことに、ヒュプシュさんは己の興奮に浮ついてて気が回ってないのか俺らの淡白な反応を咎める気配はなかった。


 その辺見切った俺はそのまま話を続けようと口を開く。


「して、詳しいお話は聞けますかな?突然なので流石に吉報とはいえ手放しに歓喜というわけには」


「えぇえぇ、勿論ですわ。実はつい先程当ギルドに王都のギルドの使者らが来訪しまして」


 急使だという彼らはすぐにヒュプシュさんに面会を求めてきたという。


 何事かと招いてみると、顔見知りの職員が幾人か混ざっており彼らが正真正銘の使者であると判明。


 確認取れた後、挨拶もそこそこに使者らは本題を告げだした。


 彼らは彼らで現在多忙の身だったが、王都のギルドマスターの命でここまで急ぎやって来た。それ故に一泊して明日にはまた王都に戻らなければならない。


 と、事情説明の後、鞄から数枚の書類を出してヒュプシュさんに差し出した。


 本当に何事だ?と益々疑念深めつつ書面を見たヒュプシュさんは絶句してしまい、使者や夫らが居るにも関わらず腰を抜かしてへたり込んでしまった。


 彼女にとっては無理からぬ内容であった。


 マシロとクロエをSランクにする事を決定。


 推薦者にはレーヴェ州節令使マルシャン侯爵とレーヴェ州冒険者ギルドマスターアラン。


 推薦理由は先日のワルダク侯爵の一件での助力とこれまでの功績を鑑みての事。


 王都のギルドマスターも承諾しており、総本部からも特に異議持ち込まれはされてないので問題なしと判断された。


 ランクアップは任命兼許可書が現地のギルドマスターに渡された時点で完了するものとする。


 大まかに言えばそのような事が書かれており、ギルド保管用の写し含めて推薦者らのサインが既にされている。


 Sランクの証明となる札やその他書類は後日改めて使者が送り届ける予定であり、先ず決定だけを知らせる為に急遽やってきたという。


 突然の事に茫然としていたが、ヒュプシュさんは使者達に謝り倒しつつも確認の為に王都のギルドに連絡をとった。


 魔道具の通信機で大量の小粒魔石と一時間半の時間をかけた結果、使者も本物、届けられた任命書も本物と確定。


 正真正銘の事実にヒュプシュさんは再びその場で膝から崩れ落ちたという。


「ま、まさか、こんなにも早く、機会があろうとは、わ、我がギルドにSランク冒険者が生まれて、在籍して、わ、我が家の悲願が……」


 説明していて再び感極まったのか、終える頃になると涙ぐんで嗚咽混じりとなっていた。


 釣られたのか彼女の左右に控えてる職員らも目じりを押さえる者や嗚咽漏らさぬよう口に手を当てる者がいた。


 感謝感激の極致なギルド側とは反対に「はぁそれはめでたい」で済むかの如くイマイチ盛り上がりに欠けた性根の俺らの方が多分おかしいのかもな。


「まーたこれで面倒なお仕事きそうで嫌だわー辞めたいわーこんな糞お仕事ー」


「くくく、同意同感共感三弾撃ち」


 喜ぶどころか僅かながら嫌そうな声音でそう漏らすマシロとクロエのコメントを耳にしつつ、俺は無表情で思案する。


 後日改めて使者が来る。


 札の発行や書類作成に左程時間要さないだろうから、多分近日中だろうな。


 もしかしたらだ、タイミング的に魔族の御一行様と被るかもしれない。


 というか多分被る。冒険者ギルドが王都の連中より地方の治安問題に対して危機感持ってるなら、アレコレ理由つけて同行するだろう。まだ数百規模の団体を襲う賊は王路まで出てきてないだろうからな。


 基本ヒュプシュさん達に任せればいいとはいえ、Sランク関係の使者を丸投げするわきゃいかんわけで。


 うーわ面倒くせぇ。タイミング悪くなければ吉報なのが余計にそういう気分にさせられるわ。


 これ以上のイベントいらねーって言ったのになんだいこれ。


 ターロンらが俺とマシロとクロエが歓喜を一切浮かべずにダンマリ決め込んでる事に不思議そうな視線を向けてるの感じつつ、俺は力なくソファーの背もたれに身を沈めるのだった。

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