第151話フラグ発生(すぐに回収するとは言ってない)

 当面の解決案提示して、今年の支払いも滞りなく行って、最初の顔合わせも簡単には済ませてと、やるべきことはやった。


 後はこのまま記念の宴となるが、場所が軍事使用目的の砦の一角なので豪勢とはいかず。まぁ野外宴会の方があちらも慣れ親しんだスタイルだろうしこれはこれで。


 内容も王都の貴族がやるような装飾過剰な気取ったものでなく、事前に手配してた酒や食べ物お出しして飲み食いがてら雑談タイムなラフなものである。


 ほぼ無礼講にさせている。どうせ後は予定もないし醜態晒さない程度に羽目外して戦勝記念に浸ってもらいたい。


 これに酒でも入れば場の空気も幾分ほぐれるもんであるが、やはりまだぎこちないな。


 暑さで温くなってる葡萄酒を不味そうに飲みつつ、俺はさり気なく周囲を見渡している。


 基本的にはヴァイト側はヴァイト側で、部族側も部族側で固まって飲食やっている。


 警戒とかではない。互いに気にかけているようだが、話す切っ掛け掴めずというとこか。


 こういう時同行してる商人が商談がてら相手に話かけて、それに乗って拡げていくべきだろうが、今回は少し難しいかもしれん。


 なにせ地元貴族組の依頼を受けて商人側の代表として挨拶しに来たようなもんだ。何かを売り買いするような権限は持ち合わせていない。


 儲け独占して勝手に自分を売り込みに行くとかしたら地元から村八分待ったなし。そもそも節令使の俺が居る前でそんな真似したら即座にアウトだしな。


 更に言えば、質量乏しくとも情報何かしら得てる俺と違い、彼らはリヒトさんらから幾つか説明受けた程度。相手の求めてる物分からないと売りようないからなぁ。


 なので商人らも族長らの方を覗いつつもチビチビと盃を傾けるしか出来ないでいる。


 俺が見合いよろしく取り仕切ればいいんだろうがな。しかし今回は最低限の顔見世だけしてもらえればいいと俺は考えてる。


 肝心の交易所をなんとか完成させて、そこに駐在する人材派遣してからようやくスタートだ。


 そんな空気なので、俺と積極的に話してるのはモモの親であり、部族連合の中心になってるゲンブ族族長であるターオ族長。そこに幾人か他部族の族長が聞き耳建ててる感じだな。


 とは言うものの、部族や州との話は先程概ね済ませてるので専ら近況を語り合っている。


「先日娘から話に聞いておりますが、レーヴェという遥か遠くの地でもそちらの二人は武威を示されたようで」


 恐る恐るな風にターオ族長は俺の左右で遠慮なく飲み食いしてるマシロとクロエを見つつ話を振ってきた。


 自分らが話題になってるというのに、ド畜生共は族長らに視線を向けることなく、互いを見つつ食事の貧相さと質の貧弱さを嗤いながら飲み食いに勤しんでいた。


 なので俺のみでの対応となるわけで。


「あぁまぁ、降りかかる火の粉を払った結果なだけだがな。本意や定められた行動の結果ではない」


「そうだとしても、大船を一撃で沈めたやら、二千前後の数を皆殺しにしたやらと、巨竜討伐の話もさることながら、節令使殿は凄まじい御仁を召し抱えておられますな」


「うむ、まぁあれだ。二人にとっては大した事ではないらしいのでな。我らには計り知れぬ逸材よ」


 おべっかというには真顔で深刻そうな声音で言ってくるので、俺は平凡な発言で言葉を濁した。


 去年の腕試しを直に見た記憶がまだ新しい上に、夏以降の活躍も聞かされて自らの恐怖は間違いでないと実感してるのだろう。


 マシロとクロエの強大さに震え上がってソレを元に俺に従ってくれるのはいいんだが、あまり実感されすぎても先程の反抗の意思示した部族への先制攻撃を正当化されたら困るぞ。


 今の所ターオ族長はじめとして族長達は心理的バランスに偏りはなさそうだ。今回はマジで事故という事で流してもよかろう。


 しかし、今後も二人への恐怖を理由に排除や粛清を乱発してもらいたくはない。そういうのは最後に辿り着くのは内輪揉めからの崩壊って相場決まってる。


 まだ一年目でほぼ何も固まってないとはいえ、統一への芽が自壊されたら面倒だ。


 俺は精々優雅そうな微笑を浮かべつつターオ族長へ語り掛けた。


「なに、貴殿の娘とも仲は悪くないようだし、部族部隊に属する者らもこちらに合わせようと日々精進している。互いに今は何も問題ないのだから必要以上に固くなることはないぞ」


 嘘は言ってない。


 モモも何だかんだで自分なりにマシロとクロエの存在を咀嚼して理解しようと頑張ってるっぽい。


 たまにではあるが、無駄に血の気の多いとこ被ってるからか、ある意味俺なんかより二人の言動に順応してる面見せたりもする。


 生真面目すぎるので基本的なノリにはついていけないだろうが、ターオ族長に言ったとおり今のとこ問題ないのだからこれでいいのだ。


 部族部隊の面々も、つい一年前まで異なる文化持ってる、州を荒らす賊のような存在と考えたら理性的ともいえる。


 勿論騒ぎの一つ二つは起こしてた。だがそれはどのような物事も完全無欠ではないというだけの話。


 他部隊と喧嘩沙汰起こしたり、年末年始の祝いの場で泥酔の挙句暴れて物を壊したような奴が数名出たぐらい。殺しや盗み働いてないだけその辺の下っ端兵士よりお行儀イイぐらいだ。


 そこはまぁ自他共に認めるお飾り隊長とはいえ、トップのモモが部隊内に居る間は睨み効かせてるのもあるし、故郷から送り出される際に軽挙妄動控えろと釘刺されてるのもあるだろう。


 兵としても質が良く、しかも規律も守るというなら、部族側に職業斡旋更に勧めてもいいぐらい。そこは彼らも誇っていいと思う。


「……かたじけない節令使殿。今後も期待に背かぬよう我ら一同気を付けていく」


 俺が単に宥めるだけに出まかせ言ってる風でないと気付いたターオ族長は神妙な顔しつつそう言って頭を下げてくる。


 一応安心したでいいのかな?それならそれでいいんだが。


 また沈黙してたら話振出しに戻りそうな気配だったので、今度は俺の方から話を振ることに。


「そういえば去年討伐した部族らだが、あれからどうだ?モモも特に何も言ってこないからして大人しくはしてるか?」


「そうですなぁ……」


 問われたターオ族長は厳めしい顎を撫でつつ去年からの部族側の事を語ってくれた。


 去年の夏から秋にかけて仕置きが済んでからは最低限の監視をしつつも放置していた。


 ほぼ無力化したので脅威じゃなくなったからというよりかは、連合として団結する為の付き合いや支援金や部隊送り出しなど、やる事は多々ある故に構ってられなうというのが実情らしいが。


 しかし冬になった頃、コッワ、フエールサ先代族長の妻らからの嘆願を聴くことになった。


 相手側の要求は食料や暖の為の燃料探しの為、三つの約束事の中の一つである集団行動の人数の一時的な増加であった。


 その年の内に解禁してもらおうとは思ってないが、小出しに人を出しての狩りや物集めをしていたら冬支度に間に合わない。少しでも冬の死人を減らす為に秋から冬の間だけでも勘弁してもらえないだろうか。


 と、族長代理として祭り上げられていた妻やその親族らは、厳しい目を向けてるターオ族長達に切々と語った。


 彼らからしたら快く応じるには抵抗があった。


 これまで数の多さを頼んで高圧的な言動を繰り返し、無暗に縄張り争いを起こし、弱小部族相手を時に手下のようにこき使ったりと好き勝手してたのが、都合が悪くなれば慈悲に縋って来る。


 そんな事もあってターオ族長達からしたら「どの面下げて」と面罵したいぐらいに思えた。


 なので最初は拒絶へ傾くのも無理からぬ事。彼らからしたら寒さと飢えで更に減って貰った方が清々するぐらい考えてたというのも仕方あるまい。


 無情とはいえ差してうしろめたさ感じないであろう決断を止めたのは、彼らなりの善意や余裕……というわけではなく。


 言ってしまえば俺を意識して踏みとどまったにすぎない。


 和約締結時の俺の言動から必要以上の殺生を好まない人間と判断。例えそれが敵対してた相手だろうと、自分らと違ってすぐ殺す真似はしないかもしれないとも推察。


 向こう何年か許す気はないが、とりあえず今後の処遇を節令使と相談して決めるなら、ひとまずあまり死なせないよう配慮してやるべきかもしれん。


 ターオ族長はそこまで思い至り、他の族長らの半数程は同調。残り半数は首傾げつつも、やっていいか分からない事をやらかした結果、貰える物が貰えなくなるの恐れて反対しなかった。


 結局、嘆願を受け入れる決断をした。今年限りのみであり、来年以降はヴァイト側の判断次第。そして少しでも不穏な動きを見せたと判断したら族滅だと脅しもかけての上で。


「流石だ。その判断は正しい。今後もその慎重さをもって事に当たるのを期待するぞ」


「ありがとうございます。こうして話す直前まで正しかったのか悩んでたのがお陰で晴れました」


 俺が賞賛するとターオ族長らは露骨に安堵した表情を浮かべて力が抜けたように大きく息を吐いた。


 散々他部族どころかウチんとこの村や町襲った罪あるとはいえ、男共の大半討ち死にして、貯めこんでたであろう財物も悉く賠償で取られてる。報いは受けたし程々で許してやるべきだろう。


 それに男女の比率変動あるとはいえ、人口的にもその辺の部族よりまだ数多いのだ。忘れがちだが連合の長ポジなゲンブ族ですら五〇〇弱の中堅規模なぐらいだ。


 まだ一年なのでケジメ期間終わるの早いだろう。だが将来的には彼らもまた連合に加わってもらい、こちらの人手不足解消を担ってもらいたいとこ。


 人の出入り制限緩和で思った以上の死人出てないだろうという前提として、俺からも救援物資を幾らか手配しておこう。


 どんな風に食い扶持賄って来たかよく知らないが、女子供が多いならどこぞの荒地開拓して農作業へ移行させるのもいいな。道具や苗とか初期投資はしてやるからそれで当面食いつないどいて欲しい。


 俺の提案にターオ族長らは戸惑い気味な反応を見せたが、いつものように俺が全額負担するのと、今後の団結の為という大義を説いてやった事で一応納得してくれた。


「節令使殿の寛大なお心感服致しました。その善なる気遣いがあやつらに通じればよいのですが」


「それでまだ反抗の意思を見せるならその時こそ族長達の果敢なとこ見せるときだろう」


「まったく捨て置いても厄介な事ですな。南の方に神が滞在中という噂がありますが、真なら居る間に鉄槌下してくださればよいものの」


「神が人間の治世に積極的に関わるわけにもいかんだろう。苛立つ気持ちは分かるが安易に頼るのは慎め。私もわざわざ赴いて頼みする程暇じゃないし、そこまでする相手でもあるまい」


「ちょ、ちょっと待ってください!?」


 愚痴るターオ族長を苦笑浮かべて宥めてた俺は、傍で飲み食いしてた平成に声かけられた。


「どうした?料理口に合わないんなら勘弁してくれ。こんなとこでマトモな食べ物出るだけマシだろうが」


「そうじゃなくて。いや、あの、リュガさんもターオ族長もサラっと凄い事言いませんでした?」


「えっ、あっ、あぁそうかお前知らんかそういえば」


 最初何に驚いてるか分からず訝しんだが、すぐに相手の疑問に気づいて納得の頷きをした。


 俺も転生者とはいえ生まれ育ち此処だからか大分感覚麻痺してるが地味に凄いよな確かに。


 まず結論から言えば、ヴァイト州には神が滞在している。


 此処が特殊というわけではない。この世界には幾つもそういう場が存在しているのだ。


 前にも言ったが、現代地球と違って神様という存在は実在している。実にファンタジー異世界らしい設定だ。


 多くの神々が存在しており、彼らは普段は天界という別世界に住んでいる。


 基本的にこちらの世界に干渉せず見物しているらしく、神側したらさながらシュミレーションゲーム画面でも眺めてる感覚なのだろう。


 だが時折物好きやお節介焼く変人が現れるらしく、二、三百年に一度ぐらいの頻度で降臨してはその時興味持った人物や国に対して天啓や力や神器を授けたりするとか。


 しかしそういう奇人変人は本当に稀なケースであり、大体の神が下界へ降り立つ理由は言うなればバカンスだ。


 天界とはまた違った大自然の中で過ごしつつ人間の営みを間近で見物(彼らからしたら別次元から同次元に移動するだけでかなり近しい感覚なのだろう)するのが一種の娯楽のようなものだという。


 こうして何故神の行動がある程度分かるのかというのも、そういった理由で降り立った神々と遭遇した人間が意を決して訊ねた結果が蓄積されてちょっとした資料として流布されたからだ。


 神もバカンス来てテンション上がってたのか機嫌が良いのを理由に意外と人間と話してくれたりするらしい。そもそも大体が天界で一生過ごす部類だから降り立つのは余程なアウトドア派気質が多いだろうな。


 無論人間如きに邪魔されて気分害した神によって消された人間も数多くいる。現存してる資料によれば最小見積もっても小国作れるぐらいの数は犠牲になってる。


 大陸史において多くの国による長い歴史の積み重ねによって、幾らかは滞在場所やどんな気質の神が居るのかも判明している。


 この国においてはこの地に居るのが判明したのはつい数十年前と最近の部類だがね。


 ヴァイト州の南方、メイリデ・ポルト県とアンゴロ・エッゲ県の境よりもう少し南の、大山脈の末端に辺り、我が王国領内でも最西南に位置する場のどこかに何かの神が滞在している。


 開拓開始してから十数年後、後の地元五貴族となる開拓団の面々が今の州都となる付近に町を造り出した時期に目撃情報が寄せられはじめる。


 当初は魔物か何かと思われ、更に開拓事業で官民共に多忙な時期でもあったのですぐさま忘れ去れらた。


 再び話題が出たのはメイリデ・ポルト県西部の開拓及び、後にアンゴロ・エッゲ県と名付けられる地域に開拓の手が伸ばされた時期。


 開拓団の人間らが神と遭遇したというのだ。


 ここで何の神かどんな姿してたのか根掘り葉掘り聞き出せばよかったんだが、当時遭遇した者らは神の威光に打たれて平身低頭しきってロクに言葉も交わせなかったという。


 神の方も干渉されたくなかったのか、ただ一言「西南の森にてひと時を過ごしてるだけだ」とだけ言い捨てて西南方面の森の中へ消えたという。


 以降、開拓は進んでいくも、未だに西南部末端付近は畏れ多さもあってこの地域以上に手づかずのままで今に至る。


 正直俺からしたら「神様というのだけは分かったのか」と嫌味言いたくなるんだが、まぁとにかくも凡夫でも本能的に悟るレベルに凄い威を持った存在だったらしい。


 大山脈に住まう部族達にも噂程度には存在伝わってるとこみれば、この一帯では長い間信じられてきた話なんだろうな。


「はぁー、本当に神様存在してるとかマジファンタジーって感じっすね。どんな神様か興味あるなぁ」


「ほっとけほっとけ。俗世は俗世で忙しいんだから神様に関わってる暇ないんだ俺らは。あっちものんびりダラダラしてるんなら邪魔するわけにもいかんだろう」


「でも神様にすっげぇ頼んで色々解決してもらったら楽じゃないですか?もし神様の中でも凄い神様とかだったら今の面倒なもんあっという間に終わりそうじゃないですかね?」


「……」


 平成が特に他意も考えなくも言った何気ない言葉だと分かりつつも、俺は盃を置いて平成の方に向き直った。


「それは言ってくれるな。神様が何でもしてくれるんなら人間の存在意義ってなんだって話になる。良い事も悪い事も全部人間が起こしたんなら人間の手でケリつけるべきなんだ」


「い、いや別にそんな深い意味なつもりで言ったわけじゃ」


「今のは平成アンタが悪いわ。お前次言ったら骨の数本砕くぞ」


「…………神なんぞに縋ってたまるかよ糞が」


 俺のマジレスに動揺する平成に追い打ちをかけるように、真顔のマシロとクロエが殺気混じりの低い声でそう言ってきた時点で、俺周りの空気が凍った。


 突然冷え込んだ空気に周囲は言葉もなく俺らに視線を集める。


 やっちまったな。と、思いつつも言った事を取り繕う気もない。


 こういうフラグ的なもんは発生したらスルーしとくに限る。


 当面塩漬け案件だよ。転移者相手に現地人がレクチャーしてやった以上のもんは動かないし動きたくねーですわ。


 少なくとも今は関わり合いにもなりたくないよそういう超常的な存在とは。カミカリ様だけでも持て余してる身としてはな。


 まぁいつか再開発していく過程で何かしら関わるんだろうけど、はてさて神様とやらはその時どんなお気持ちで俺らと接してくれるやら。


 何故か大失言かましたみたいな風になって涙目で震える平成を見つつ、俺は再び盃を手に取るのだった。

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