第134話殺っちゃったぜ☆(クソデカ溜息)

 節令使府からの使者を手土産多く持たせて帰らせた後、俺達は目の前に転がる生きた廃棄物の処遇をどうするか話し合う。


 解体場の外でその場で立ち話という時点で如何に俺らがどうでもいいと思ってるか察してくれ。


 とはいえ僅か数日の因縁だが今回の事件の引き金ぐらいになってる。捨て置くわけにもいかないのもまた事実。


 ケジメをつける。


 マシロの言い草借りるなら断罪イベントを済ませることで内外に区切りを示せなくもない。


 そんな事はこの場に居る全員の共通認識であり話の前提。


 だがいざどうするかという点になると億劫なんだよなぁこの貴族の馬鹿息子の処理。


「常識的な意見を述べますと、数々の乱暴狼藉の挙句に省都襲撃を仕掛けようとした輩を生かしておく理由はないかと思うのですが」


 ギルドマスターのアランさんは左程迷うことなくそう意見する。


「まぁなんですな。侯爵殿や家が健在ならまだ何かしら価値も付けられますが、どちらも消えるとなればその辺の労働者にも劣るゴミですな。さっさと処分すべきです」


 アーベントイアーさんは商人らしく価値どころかリサイクルしようもない不良品と見なして断じた。


「何が出来るような人物には見えないですけど後日の厄ネタになりそうなものは芽のうちに始末すべきですな」


「これだけの事をしでかして無罪放免や生き延びられるなどと思う方が愚かだ。問答無用で殺せばいいのでは」


「あっと、あの、まぁ僕もこの人死刑でいいんじゃないかと。人が死ぬ場面見たくないっすけど、冤罪とかでなくガチの犯罪やらかしてるんだし法律的に問題ないならアリで」


 ターロン、モモ、平成も各々の個性に沿った発言で殺すことを勧めてくる。


「えー、断罪ってそういうつもりでやるもんでしょー?追放したとこで野垂れ死にか魔物の餌でしょー。なら利用出来そうな手段一択よー?」


「くくく、寛容と無原則の境界線のデッドオアアライブ。間違えでない冷血無情の振るいし時」


 マシロとクロエはさも当然のような顔してそう答えた。


 実を言うと俺も目の前に転がってる馬鹿息子は死ぬしかないと信じて疑ってない。


 この場の誰もがそう思ってて誰も庇うどころか弁解の一つも聞く耳持たずな状況は自業自得とはいえ少し悲惨だなおい。


 満場一致ならばさっさと誰かに命じて刺し殺すなりすればいいのだが、それはそれで手段とかタイミングを話し合うこととなる。


 まずこのまま気絶した状態で殺しとくか、せめてもの情けで起こして一応死ぬ理由説明した上で殺すかからだな。


 という事になると意見が分かれた。


 女性陣とアーベントイアーさんは「時間の無駄だからもうさっさと死なせよう」とにべもないのだが、それ以外は温度差はあるが一応裁きの体裁とるなら罪状聞かせるべきかという言い分。


 俺も個人的にはさっさと処分したい気分だよ。


 しかし自身の立場や体裁考慮するなら上辺だけでも私刑じみた形は薄めるに越したことはない。


 結局悩んだ末に俺はアクダイカをひとまず起こす決断を下した。


 先に述べた理由もあるし、まだ解体作業中で見物以外する事もない俺らには時間的余裕があるという理由もあった。


 すぐに死ぬんだからわざわざ起こして恐怖与える必要性あるか?


 と、問われたら無いと断言出来る。しかし罪人の都合なぞ知った事ではないんで。こちらの自己満足全開なの否定はしません。


 自分が何故死ぬかの理由聞いて納得して欲しいと思うのは断罪する側の身勝手な願いだがはてさてどうなるか。


 俺は兵士の一人に命じてアクダイカを叩き起こさせた。


 遠慮はいらないという俺の言葉を受けて命じられた兵士は槍の柄で乱暴にアクダイカの頭を数度叩く。


 痛みに呻きながらアクダイカが目を覚まして周りを見渡す。次いで身を起こそうとしたが、ほぼ簀巻きにされてる状態なのでそれは叶わずにもがくしかなかった。


「な、なんだ。一体何が起きたんだ」


 馬鹿なのかこの期に及んで都合の悪い事を忘れようとしてるのか、恐怖に気絶してたとは思えない間抜けな戸惑い声を発してる。


 しばし呆然と周囲を見てたアクダイカは俺らをようやく視認した。


 数瞬の沈黙の後、アクダイカは顔を怒りに赤くしだす。


「き、貴様ら自分が一体何をしてるのか分かってるのか!?侯爵家嫡男たる俺様にこんな真似をしてタダで済むと思ってるのか無礼者ども!!」


「うわぁベタすぎる」


 目覚めて第一声が場違いな虚勢に平成が思わずそんなつぶやきを漏らす。


 周囲の面々も似たような思いを抱いてるのか無言で呆れたようにアクダイカを見下ろしていた。


 俺らのそんな反応に気づいてないのかアクダイカは口を封じられてないのをいいことに言葉を続ける。


「父上や母上はどこだ!?俺様達の財産はどこだ!!ワルダク侯爵一家を軽んじるような真似が許されると思うなよ!!父上や母上が出てくればお前らなんてすぐさま罰せられるぞ!」


「……侯爵はともかく侯爵夫人は彼の目の前で死んでる筈では?」


「クロエがキッチリやってるからそうねー。まっ、都合の悪いこととか嫌な事とか全部すぐ忘れる便利なオツムでもしてんじゃないのー?」


 怪訝に思ったターロンにマシロが面倒そうにそう答えた。


 いやマジかよ。母親殺されてる場面衝撃すぎだろうにリセットされてるとか鳥頭ってレベルじゃねーな。


 異常というか生まれてから此の方育まれてきた歪さが成せる事かもしれんな。


 微塵も凄いとか思わねぇけど。


 思わぬ発言に出鼻挫かれてしまったが、延々と妄言聞いてる気分でもないので俺は兵士らに命じてアクダイカを黙らせようと試みる。


 と言ってもやり方は直接的なもの。つまりまぁ数発ぐらい殴る蹴るの暴行をするわけで。


 威勢よく喚いてた侯爵家嫡男も思い切り殴られて「ひぃっ!」とか言って恐怖に口を一旦閉ざす。


 黙ったのを確認した俺は一歩前に進み出てアクダイカに語り掛けることとなった。


 法務や刑務関係が居ればそいつに丸投げして後方腕組上司顔したいんだが、そういうの居ない以上は節令使の俺が裁きに関して進んで口出さないといけないわけでな。


 俺の姿を見たアクダイカが何か叫ぼうとするも左右に居た兵士らに頭を踏みつけられて遮られる。


 それを準備完了の合図として俺は咳ばらいを一つして厳かな表情を浮かべた。


「……ワルダク侯爵家嫡男アクダイカ・フォン・ワルダク。今回の騒乱を引き起こした罪によって卿をこの場において死刑に処する」


「………………え゛っ?」


 俺の宣告を耳にした瞬間、アクダイカは何を言われたのか分からないという風な顔をして俺を見上げてきた。


「これまでの卿や卿の家族が犯した罪は今後判明していくだろうが、それを除いたとしても、二度に渡るヴァイト州節令使である私への襲撃及び兵を伴いレーヴェ州州都を襲撃した件は立派な反逆罪である。法秩序や治安の観点から見ても情状酌量の余地は無しと見なされる」


「は゛っえっっ、え゛?」


「既に卿ら一家が率いてた手下は悉く死という報いを受けており、侯爵夫人もその中に含まれている。ワルダク侯爵も今後王都に送還され然るべき裁きを受けるだろう。侯爵家も財産含めてレーヴェ州節令使を中心として厳しき沙汰を降す手筈となっている」


「なっ、ばっ、えぁ、ぺぇ、あ゛あぁ…………」


「卿の生殺与奪に関しては既にレーヴェ州節令使及び同節令使府の許可を得ている。せめてもの情けで苦しまぬよう配慮する故に明々白々な大罪を行った一味として大人しく罪を購うがよい」


「…………」


「以上のの宣告及び執行をヴァイト州節令使リュガ・フォン・レーワン伯爵の名において責任持って執り行いしものであることをここに宣言する」


 俺が言えば言う程に言葉を失っていき最後には青ざめて黙り込んでしまった。


 無理もないか。死刑宣告されてしかもいますぐ執行されようとしてるシチュで平静にはなれないぞ誰もが。


 空気も微妙に重いのもこれまた無理もない。死んで当然とはいえ好き好んで死刑に立ち会う変わり者もそうはおらん。


 長々と辛気臭い場に留まるのも趣味ではないからさっさと執行しよう。


 宣言した手前嬲り殺しは論外なのでサクッと首飛ばそう。ということで誰ぞに斬首係を頼もうとしたときだ。


「……いうんだよ」


「んっ?」


「酷いぃぃぃあんまりだぁぁぁっぁ!!俺様達が何をしたっていうんだよぉぉぉぉぉ!!!?」


 いきなりアクダイカが身をよじらせて叫び出した。


 兵士らが直ちに取り押さえようとするも今度は怯みもせずに地に這いながらも暴れている。殴られようとも既に痛みも気にしてないのか黙りもしない。


 目から涙を流し鼻から鼻水を垂れ流しと、先程連行されていった父親そっくりな形相。違いは口から泡吹く代わりに目を血走らせて焦点が合ってない辺りか。


「お前たちはぁぁぁぁ頭おかしいんじゃないかぁぁっぁぁ!!?どうしてぇぇぇこんな酷い事をよぉぉぉ平気で行えるとか人間かそれでもぃおぉぉぉぁぁ!!」


「……お前らがこれまでやらかしてきた事考えたら当然の報いだろう?私の件を置いても多くの者が侯爵やお前によって苦しめられた筈だ」


 なにせこれまで黒に近いグレーとはいえ噂だった犯罪組織と繋がってるの確定だからな。地元海賊やらこの州各地のチンピラどもとか集めてる時点でアウトだろ常識的に考えて。


 その点も加えて指摘してやってもアクダイカは怯む気配はない。


「何ぉぉぉ訳の分からないこと言ってるんだよぉぉぉぉ糞ぉぉぉぉぉ!!!俺様達は侯爵だぞぃおぉおお!?貴族なんだぞ!?選ばれし者なんだぞぉぉぉぉ!!下賤な平民なぞどう扱ってもいい権利と義務があるんだぞぉぉぉ!!?貴族のくせにそんなことも知らないのかお前ぃぅぇぇぇぇ!!!?」」


「えー……」


 アクダイカの死を目前にしつつも大声で喚く身勝手さに、俺は呆れの極致に達したからか目を点にする以上のリアクションとれずに固まってしまった。


 コイツというかこの国の馬鹿貴族はマジどういう精神構造してるんだよ。特権階級の悪いとこ煮詰めすぎじゃね?


 現代地球の韓国だったか、自分がやればロマンスだが他人がやれば不倫という言葉があったような気がする。いわゆる二重規範またはダブルスタンダードという意味でのやつだな。


 どの歴史でもどの国でも、それこそこの世界でもどこにでも転がってる出来事なので奇異なものではない。専制政治体制で生まれ育ったなら猶更今更驚くべきでもない。


 とはいえ、ここまで罪を突き付けて断罪されようとしてるときに言い出す輩もそうは居ないわけで。


 チラリと左右を見渡すと、マシロとクロエが何も響いてないのか無の顔になってる以外は全員俺のように唖然とした顔して足掻きまくるアクダイカを凝視していた。


 そりゃ皆驚くよな。死刑執行の際に抵抗したり泣き叫んだりするのは想像出来てもこんな馬鹿みたいな発言喚くとは思わないよ。


 結果論だけど起こさずにさっさと始末してた方がよかったなこれ。なまじ体裁気にして形式踏んだ所為でこんな醜態拝む羽目になったんだから。


 いやでもこれほど酷いの想定しろって少し無理あるんじゃね?


 それとも俺がアクダイカみたいな奴の精神構造甘く見てたになるのかなこれは。言っても理解しないレベルの知性と自己分析力を見誤ったやつか?


 悪い意味で意表を突かれて絶句してる最中もアクダイカは絶叫し続けていた。


「俺様達がなんで死ななきゃならないんだよぉぉぉ!!こんなの間違ってるぅぅぅぅ!!嘘だこんなぁぁぁのぉぉぉ!!」


「せ、節令使様如何致しますかこやつ」


 抑え込んだり黙らせようと殴ってたりしてた兵士達も流石にうんざりしてきたのか俺に訊ねる体で行動を促してきた。


 促された俺もようやく我に返った。


 妄言を聴く必要などゼロなんだから元々。不意を突かれてベラベラと喋らせてしまった点は確かに俺の判断ミスだ。


 これ以上不手際晒す前に終わらせよう。


「……首はレーヴェ州節令使府にて検分行うので落としたらすぐに塩漬けを。材料は解体場のを頂戴するがよろしいかギルドマスター?」


「あっはい。桶もお貸しいたしますので遠慮なくお使いくださいませ」


「首から下は不要だ。焼却処理した後は灰や残りカスはその辺に埋葬を。身に着けてる物は作業行う者に手間賃として与える。あぁでも身元証明の為に何か一品だけこちらで回収するとしよう」


「では私らにこのままお任せください!品もちゃんとお渡ししますので」


 俺の指示に取り押さえをしていた兵士らが弾んだ声で応じる。


 罪人の首落として死体処理するだけで幾つもの貴金属、換金すれば金貨何十枚は軽くするであろう物が得られるとなれば兵士たちにとって役得すぎるものとなろう。現に周りの兵士らが羨ましそうに同僚を見ている。


 多額の臨時収入を得るとあってアクダイカを取り押さえてた兵士らは騒ぐ貴族の馬鹿息子に伸し掛かって身動きを更に封じる。


「嘘だ嘘だ嘘だー!どうしてこんな酷い事を俺様にするんだよぉ!!身分卑しき奴らを相応しい扱いして使ってやっただけでこんな目に合うとかおかしいだろうぉ!!恩知らずな奴らが離せぇぇぇぇ!!」


 いよいよ執行されると悟るやアクダイカは暴れ狂うも、弱い者いじめをするしか能のない貧弱な身体では屈強な兵士らの前では無意味。


 身体を抑えられ、髪を乱暴に引っ張られて首の動きもほぼ封じられた。それを確認した兵士の一人が剣を鞘から抜いて大きく振りかぶった。


「ンギャァァァペェェェェェェ!!!」


 意味をなさない奇声が最後の言葉となった。


 剣が大きな音を立てて振り下ろされると同時に奇声は途絶える。


 午前に始まった騒動は昼飯の時刻になる前には片が付いた。


 規模を考えたら驚くべき速さで終焉した。と、当面語り草になるだろうし、なってもらいたいもんだなこういう光景立ち会うとさ。





「……終わりました?」


「あー、終わった終わった。でもまだ処理中だからお前さんは直視しない方がいいな」


 耳をふさいで後ろを向いてアクダイカが処刑される場面を見てなかった平成の問いかけに俺はそう答えた。


 アクダイカの首は落とされてすぐさまギルド関係者に解体場へと運ばれていった。今頃適当な桶に入れられて薬品注ぎ込まれてる頃だろう。


 首を失った胴体は縄を解かれた後は装飾品の取り外しを行っている。首や指など各所を飾ってた貴金属が雑に外されては俺の前に置かれていく。


 俺が吟味してる間に処刑担当した兵士らは何も残ってないのを確認して遺体を少し離れた場所へ火にくべるべく持ち出していく。


 宝石類を一つ一つ手に取り眺めてると、アーベントイアーさんが隣にやってきた。


「吟味お手伝いしますよ」


「これはどうも。やはりこういうのは商人に見てもらう方が一番ですかな」


 俺が素直にそう言うと老商人は小さく笑った。


「貴族でも色々居るものだと改めて実感しますなぁ。私も長い事身分の高い方と商談してきましたが、ここまでのはなかなかおりませぬよ」


「貴族としての誇りがどうこう言うなら最後ぐらい相応しい態度をとって欲しいものですよ。あそこまで見苦しいのは滅多にない筈ですが」


「それが出来る貴族が我が国に幾人おられると思いますか?いざというときに身分に相応しき行動とれる御方が如何程居るか」


「……さて分からないですな。私とていざそういう立場になればどう振舞えるか自信ないですからな」


 微妙に際どい質問。というか、高位高官の貴族相手に些か遠慮ない質問をされた俺は露骨にとぼけた風を装ってはぐらかした。


 アーベントイアーさんも直球な答えは返らないだろうと予想してたのかそれ以上は何も言わずに黙って宝石を手に取り眺め始める。


 なんとなく黙ってたい気分だったからか、マシロとクロエが昼飯催促しにくるまでの間二人で黙って宝石を見ていることとなるのであった。


 ひとまず騒動を収めた。後はこの騒動で得たものの確認になるか。


 まだこれで一日の半分がようやく終わったとか、えらく長く感じるなぁ。

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