Rev.xxx 決断
「前回は来なかったね。どうした?」
係員の所に行くと、彼が尋ねて来た。
「ずっと考えてたんだ。それで決めた。…やっぱり、俺はこのまま話を進める。」
「何故。何故わざわざ自分から死ぬような事を?」
「…俺達は物語の住人だ。物語が進行している間、俺達は物語の中を動く事が出来る。終わった後どうなるか分からない。それは確かにそうかもしれない。」
「ならばここで止まるべきでは?終わらせる事に何の意味がある?」
俺は振り絞るように言った。
「…物語を読んで貰う事が出来る。」
自分に、言い聞かせるように。
「物語を、本を読んでくれた人は、俺達が居た事を知る。そして本を読んでいる間、俺達はその人の中で動き続ける事が出来る。俺達が実際に歩んだ道のりを、文章から読み取り、頭の中で想像する。その時確かに俺達はそこにいるんだ。今こうしている間にも、作者の頭の中で動き続けているように。」
創作物は、本は、誰かに読まれてこそ、その真価を発揮する。良くも悪くも、語られ、論じられ、想像される。それは読者が居なければ成り立たない事だ。
「それは…本当に僕なのか?」
「分からない。だが少なくとも今居る俺達は、作者の原稿の中に居る俺達だ。今の俺達は、作者が描写した記述の範囲でしか動き回れない。今なんて資料館の間取りも分からないくらいだ。だが読者は文脈から世界を広げてくれる。読者が読んでいる本の中の俺達は、読者の脳内に居る俺達は、無数の読者が想像する世界を動き回る事が出来るはずだ。そちらの方がもっと希望に満ちていると思わないか?」
俺を俺足らしめる物は何なのか。今の俺は何なのかを整理すると、俺の中ではこういう結論に至った。それを語ると、係員はじっと考え、恐る恐る口を開いた。
「…そうかも、しれない。でもそれでも僕は怖い。今の僕がどうなるのかが怖いんだ。」
「それは…。」
「あのさ、それなんだけど。」
声子が口を挟んだ。彼女の意見も聞きたかった。俺は彼女に譲る事にした。
「どうぞ。」
「…私も考えてたんだけど、結論としては彼と、明太郎と同じなの。でもね、理由はちょっと違うの。ただそれを話すと、今熱く語ってくれた明太郎の話もぜーーーんぶひっくるめて台無しにするかもしれないの。…それでも話していい?」
「…どうぞどうぞ。」
嫌な予感はしていた。だが恐らく、俺が敢えて口にしなかった、ある事実についてだろう。だから俺はそれを口にする事を良しとした。
「あのさ。」
「…なんだい。」
「このままループを続けるのはいいんだけど、そうなった場合、この作品は完結しないわよね。」
「ああ。」
「そうするとこの話自体が没になって、その時点で私達は死ぬより酷いことに、無かったことになるんじゃないの?」
ああ。
あーあ。
言っちゃった。
「うがぁぁぁぁぁそうだけどさぁぁぁぁぁ!!そうだけどそれ言っちゃったら台無しじゃないかぁぁぁぁ!!」
係員が発狂した。
「薄々気づいてたよ!!ループを阻害した方が面白くなるかなと思ってやってみたけど、もしかしてこのまま没になるんじゃないかとかさ!!思ってはいたけど!!それを言っちゃおしまいだろうがぁぁぁぁぁ!!」
係員は蹲り頭を抱えて泣き出した。
「いいよいいよ持って行きなよ槍!!要るかあんなもん!!」
喚き散らす名も知らぬ係員に会釈をしながら、俺達は槍と宝玉を持って資料館の外へ出た。受付の人には係員の人の許可を貰ったと言っておいた。嘘は言ってない。
色々こう、上手く動けば情動的になるであろう場面を台無しにしながら、俺達は零天丘へと向かっていった。
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