Rev.4

 背中を曲げてトボトボと受付に挨拶した後展示館を出る。再び街の喧騒に紛れる。虚しさに包まれた心をその喧騒が傷つけていく。可能性があるのは後三箇所。どこから周ったものだろうか。

「仕方ない。俺は二宮資料館に行くから、お前は四谷博物館に行ってくれ。」

「OK。開始したら携帯交換して連絡取れるようにするわよ。」

 そう言って俺と声子はそれぞれの携帯の番号を交換した。登録が完了したらすぐに二手に別れて走り出した。


 二宮資料館はここから一ノ瀬資料館の方向へ戻って、更に西へ進んだところにある。一方、四谷博物館は歩いて五分といったところ。体力に自信が無い声子には近場に行ってもらって、俺は少し遠いところに行くという作戦である。加えて、四谷博物館は、意外と広い。何度か通った事がある彼女の方が、探索し易いという考えもある。

 道のりは予想以上に険しかった。時間の経過に連れてパニックの度合いが増しているのが目に見えてよく分かる。それは即ち、形振り構わず好き勝手やらかす手合いの増加も意味するわけである。路上であんな事やこんな事をする者、大声で祈りの言葉を叫ぶ者、色々居る。俺にとっては全て障害物以外の何物でも無いわけで、とにかく掻き分けて進むしか無かった。声子は無事だろうかと心配になる。テレパシーも距離が離れると効かないらしい。状況確認は電話くらいしか方法が無い。だがそんな事をしている余裕もなく、自分が何事かに巻き込まれない様気をつけながら走り続けるしか出来なかった。


 資料館の入り口に着いた頃には、残り時間は二時間きっかりとなっていた。時間を大分使ってしまった。騒乱に巻き込まれない様にするのに時間を割かれてしまった。そういえば声子は大丈夫だろうかと思っていると、スマホが振動した。開いてみるとショートメッセージが入っていた。

『漸く着いた。痴漢を叩きのめしてたら時間が掛かった。これから探す。』

 声子からのものである。体力が無い様に見えたが、腕っぷしの強さとは直結しないようである。…心配して損したような、安心したような。複雑な気持ちである。

『こちらも着いた。探してみる。』

 と返信すると、スマホをしまい、資料館の中に入った。


 資料館は記憶の通りこぢんまりとしていた。ただ記憶と違っていたのは、受付もなく見学自由となっていた点だ。その時点で嫌な予感はした。そんなところに大切な展示物を置くとは思えなかったからだ。

 それはものの見事に的中した。例の槍は無かった。展示物自体がほとんどなく、せいぜいパネル程度だった。

 パネルを読むとその理由がよく分かる。この資料館はこの施設そのものが展示物であり、それ以上でもそれ以下でも無かったのである。

「無駄足を踏んだ…。」

 俺は一人呟いた。そしてスマホを取り出すと声子に連絡を取った。向こうから帰ってきた返事もまた同様であった。広い館内を探し回ったが、見当たらないため、残っていた博物館の人に確認したが、ここには無いとのことである。だが収穫もあった。展示場所をその担当者が知っていたのだ。それは最初の位置から一番遠い場所、五十嵐資料館との事であった。

 問題はどうやって行くかである。というのも、人々の混乱の度合いは更に増していたからである。初報の一時間を回って安堵する者、現実を突きつけてそれを絶望に叩き落とす者まで出てきた。道路の混み具合も酷くなっている。このまま進む事は出来なくはないが、要する時間は相当なものとなるだろう。向こうに着く頃には残り一時間という事に成りかねない。



「というわけでRev.3の時点に戻してくれ。」

 俺は天に向かっていった。

『うーむ。』

 天の声、作者は迷っているようだった。

「迷われても困るんだけど。ちゃんと協力してよ。」

『しかしだな、パニック描写としては必要なので、この続きという体で進めて欲しいんだが。』

「えー?無茶言うなよ。こんな人掻き分けて進むなんて無理だろ。」

 俺は停止した時間の中で、パニックに陥った状態で固定された民衆を指して言った。

「というかこんなに人どこに居たんだよ。この街の人口はどのくらいなんだ。」

『観光客が多かったという事で理解してくれ。…しかしまぁ、確かに、ここまでの描写をしてしまうと、槍がある資料館に辿り着くのは難しくなるかもしれんなぁ。辿り着けたとしても説得力が落ちる。』

 考え無しに人を増やすからだ。終末を描く上では必要かもしれんが、それを何とか出来る方法を作ってくれないと困るというものである。

「飛行機くらい出してくれれば何とかなりそうなんだけれども。」

 声子の声が聞こえてくる。

『パイロットの問題が出てくるので少々辛い部分がある。…仕方ない。巻き戻すことにする。』

 天の声と共に視界が暗転する。


 気が付くと元の三枝展示館の前であった。

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