Rev.3

 三枝展示館への道も五十嵐資料館程ではないが大きめの車道になっている。何処に避難するつもりなのかは知らないが、そこにも車と人が溢れていた。車のプップーというクラクションと、それに対する罵声が飛び交っている。騒がしい事この上無い。

 道を塞ぐ様に天を仰ぎ見て立ち尽くす人々も居る。川沿いにも居たが、その時よりも明らかに増していた。走りながらその視線を辿ると、空の赤い石へ行き着いた。後二時間ちょっとだったか。ニュースが流れた時よりも大きく、近づいているのは間違いようである。怖くなる気持ちも理解出来る。だがそれでも立ち止まっている人々は今の俺にとってはただの障害物であった。

「邪魔だなぁ。」

 俺は呟きながらそれを掻き分け走り抜けていく。

『ウダウダ言わない。今下手に人を怒らせると殴られるわよ。皆パニックになってるんだから。』

 声子が脳内に語りかけてきた。分かったよ、と彼女に返す。

 そういう訳で俺達は無言で走り続けた。辺りの喧騒はそのままだったので耳が痛くなったが、我慢するしかない。


 走る事十分。俺達は三枝展示館の前に居た。歩きよりも早く辿り着いたが、代償として体力を大幅に消費した。二人とも冬だというのに汗だくで、体力が無い声子は座り込んでゼエゼエ息を吐いている。

「へぇ、へぇ、つ、つか、つかれ、た。」

「ま、まだ、ここからが本番だぞ。」

 そう言って二人で展示館へ入る。そう、目的は展示館に着く事では無い。伝承にある槍を探す事だ。


 息を整えて展示館に入ると、ここには受付が居た。逃げないのですか、と問うと、どうせ逃げる場所はないですし、と言われた。ごもっともである。逆に言われた。こんな時に来るなんてそちらも物好きですね、と。全くもってごもっともである。

 受付が居るなら話は早いと、例の槍について尋ねた。だが、求めていた答えは得られなかった。なんでも、例の槍は、街の中の展示館・資料館を結構な頻度で渡り歩いているらしい。目玉になるからと場所を取っ替え引っ替えやっているらしく、ここにあった時期もあるし無かった時期もある。なので受付の私に分からないと言われてしまった。

 最悪である。

 中に入らないと、例え受付が居ても確認出来ないという事だ。

『量子力学かしら?』

『うるせぇ黙れ。』

 疲れているんだから皮肉を言わないで欲しい。俺は心の中で呟くと、じゃあ行くかとばかりに展示館の中へ入っていった。

 展示館の内装は一ノ瀬資料館と同様だった。人の気配が無いのも同じ。探しやすいのは有り難い。俺は順路を辿り、彼女は順路を逆走する形で、手っ取り早く一周するようにした。


 無い。


 俺の方は掛け軸のレプリカはあったが、槍は無かった。

 彼女の方は何も無かったらしい。

「「はぁ。」」

 二人で同時に溜息を吐いた。

「ていうかさっきの話だと、可能性もクソも無いわよね。何処にでも有り得るって事じゃないの。」

 言われてみればそうである。という事は、無視した二宮資料館にあるかもしれないという事になる。

「…虱潰しに探すしか無いのか…。」

「そうなるわね…。」

「「…はぁぁぁぁ。」」

 溜息は更に深くなった。


 背中を曲げてトボトボと受付に挨拶した後展示館を出る。再び街の喧騒に紛れる。虚しさに包まれた心をその喧騒が傷つけていく。可能性があるのは後三箇所。どこから周ったものだろうか。



「ねぇ、これ、もしかして次はここからなの?」

 声子が天に、作者に問う。

『折角いい感じに書けているのに話しかけないでくれ、リセットさせないと行けなくなるでは無いか。』

「うるせぇ答えろ。」

 彼女の語気が荒くなる。疲れているのだろう。気持ちは痛いほど分かる。

『…はい。その、受付の説明は展開上必要なので、そのままとなります。』

 その言葉を聞いて俺が気にしたのは時間である。俺はスマホで時間を確認した。落下まで大体二時間半。これで後三箇所周るのは辛く無いだろうか。

「時間が無いじゃないの。」

『二時間あれば何とかなるだろう。』

「時間を舐めてかかっちゃダメよ!二時間なんてね、気付いたら過ぎているものなのよ!?」

 その言葉には実感が篭っていた。何かやらかしたのだろうか。

「あー、じゃあさぁ、次は探索に専念させてくれないか。それでダメだったらココに戻してくれ。」

『まぁそれはいいが、うーむ、それで面白くなるだろうか…。』

 作者が悩み始めたが、知った事では無い。

「そのくらい大目に見てくれよ。」

 そう言うと作者は渋々了承した。

「よし、今のうちに作戦会議だ。俺は二宮資料館に行くから、お前は四谷博物館に行ってくれ。」

「OK。開始したら携帯交換して連絡取れるようにするわよ。」

 二人で頷く。

『それ、ちゃんと本文でもやってくれ給えよ…?』

 作者が心配そうに呟いた。

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