第二章・改 x=2:しりょうかんをさがそう

Rev.1

 川沿いには人が溢れていた。どこに逃げれば良いかと慌てふためき泣き叫ぶ者、ここぞとばかりに簒奪に走る者、諦めて地に座し天を仰ぐ者、最後だからと川に入って泳ぐ者。様々な人が各々の終末を迎えんとしていた。

 俺と声子はそんな人混みを掻き分けながら、資料館へと走っていた。


「ここよ。」

 資料館の前で声子は足を止めた。資料館の周りも中にも人気は無く、誰かが出ていったのか、戸が開け放しになっていた。普通は受付で五百円支払ってチケットを買ってから入るのだが、生憎受付にも人が居ない。非常事態という事で、受付にそれぞれ五百円ずつ置いて、勝手に入らせて貰った。

 江戸時代の蔵を改築して利用しており、雰囲気を出すために光量の少ない電球を使用していた。漆喰の壁をそのか細い光が照らしている。その壁に沿うように、少々場違いとも言えるショーケースが置かれており、その中にはこの地域に残されていた書物などが飾られていた。

「確か二階だったはず。」

 声子の言う通りに順路を辿って二階へ向かった。

 二階に上がった先には、まず掛け軸があった。二メートルはあろうかという縦長の大きなものだった。上の方には、鬼のような顔をした巨大な赤い男性が、火を纏い天から降りてくる姿が描かれている。その手には何か球状の物を携えていた。そして下の方には、それを迎撃するかのような格好で、同じく巨大な、こちらは女性の姿が描かれている。その手には槍があった。そしてその足元には木製の家々や蔵が描かれていた。恐らく当時の街並みなのだろう。この掛け軸こそが『炎と海の神の伝説』の書である。俺はこれを見て、昔見て少し怖くなった事を思い出していた。

「おお…改めて見ると何とも素敵ね…。やっぱりこの球状のものは隕石を指しているのよ。だからやはりこれは実際に江戸後期に起きた出来事なのよ。きっとその頃にも隕石が降ってきて、それを何らかの方法で迎撃した。そうに違いないわ!!そしてそんな事が江戸時代の人に出来るとは思えない。きっと宇宙人か何かの技術よ!!」

 物凄い論理の飛躍があった気がする。俺は一人盛り上がる彼女を放って、二階の展示室を見渡した。例の槍を見つけるためだ。

 だがそれらしいショーケースは何処にも無かった。

「…?無いぞ?」

「ハァ…素敵…。伝承、未知の技術、最高に神秘的ィ…。」

 何かトリップしている声子に俺はもう一度言った。

「おい、無いぞ。

「…え?何が?」

 漸く気づいたのか、声子がこちらを振り向いて言った。

「槍。それらしいショーケースも無いぞ。」

「槍?…ああ槍。…あれ?別の資料館だっけ?」

 声子も困惑している。俺たちは頭を捻った後、まさかと思い天を仰いだ。



『さぁどの資料館かな!?』

 天から声が響いてきた。

「お前ーーーッ!!」

「場所をズラしたなぁ!?」

 俺と声子が叫ぶと、作者は悪びれも無く答えた。

『いや、変えてはいないぞ。ただ別の場所にあるだけである。』

「それはどこだよ。」

『それを探すのがこの章の目的だから明かすわけにはいかない。街を探索し、人々の混乱に巻き込まれながらもそれを見つけ出す、というのが筋になるからだ。』

 こいつは本当に書き終える気があるのか。

『筆が乗ってきたから問題ないはずだ。というか、ただ見つけて終わりだけではドラマも出来ないだろう。』

 言っている事はまぁ至極もっともと言えるが、今まで散々没にした作者がそれを言うか、という話である。

『なお、掛け軸の描写は無くすつもりは無い。前半はそのまま使うつもりだ。多少削るかもしれんが。』

 更に条件が増えた。

「ここまでで大体1100文字…。残り900文字でどうやって探すのよ。」

『そこは君たち次第ということで。何とか辿り着いてくれ。』

 無責任にも程がある。まさか何回もトライアンドエラーで進めろというのか。

『…辛いとは思うが、多少苦労する描写も必要かと思うので、そこは理解して欲しい。』

 こいつ、没にするのはこいつだと言うのに、気軽に言ってくれるものである。世界滅亡を招く本人がのうのうとしているのには腹が立つが、兎も角それに構っている余裕も無い。物語を進めるしか無いようだ。俺と声子は目配せして、進行を再開する事にした。



「別の資料館って、後街に幾つあるんだよ。思い当たる節とか無いのか?」

 声子に尋ねると、彼女は腕を組んで唸り出した。

「うー…四つくらい…心当たりがあるかな…。」

 四つ…全てを確認する時間は無い。時間的には後二時間半といったところであるし、文字的には後約100文字しか無い。作者との会話で文字を使いすぎた。文字を使うって何だと言いたいが、余裕が無い。

「いいか、次の周回では、掛け軸はサクっと見て終わらせて、その心当たりの一つ目まで向かうぞ!!」

 俺が叫ぶと、彼女は頷いた。

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