Rev.3
川沿いには人が溢れていた。どこに逃げれば良いかと慌てふためき泣き叫ぶ者、ここぞとばかりに簒奪に走る者、諦めて地に座し天を仰ぐ者、最後だからと川に入って泳ぐ者。様々な人が各々の終末を迎えんとしていた。
俺と声子はそんな人混みを掻き分けながら、資料館へと走っていた。
「ちょ、ちょっと、早すぎる、わよ。もう少し、ゆっくり…。」
息切れである。そういえば彼女の姿を見かけるのは、教室以外は図書室ばかりであった。体力があるようには見えなかった。
彼女を初めてまともに見たのも図書室だった。オカルト雑誌や都市伝説の本を積み上げていたのと、今時珍しいグルグル眼鏡だったので記憶に残っている。こうして話す機会も、ある時点まで殆ど無かった。
だが今はそんな事は気にするべきでは無い。
今すべき事、それはただ一つ。目的地に向かうこと、そして世界の破滅を防ぐ事である。
俺は振り返ると彼女に向けて叫んだ。
「どうしたぁ!!疲れたのか!!そんな弱音を吐いている暇はないぞォッ!!世界滅亡を!!何とか阻止するんだッ!!行くぞぉぉぉぉぉぉっ!!」
そして前を向き直ると、自分の出せる最高速度で駆け出した。
数分走った後、ある事を思い出して俺はUターンして戻ってきた。声子は先程居た場所から数メートル程度進んだところに居た。疲れているのか、あまり進めていないようだ。
「あー、その、どうしたのよ。」
声子が驚いた様子で尋ねてきた。
「すまん!!道が分からなくなった!!場所を教えてくれッッッッ!!」
彼女は唖然とした顔でこちらを見てきた。何か変な事を言っただろうか?いやそこまでおかしな事は言っていないと思う。
「…そう、じゃあ、案内するから、おんぶしてくれない?」
彼女の提案を俺は呑んだ。
「よっしゃあ!!行くぜぇぇぇぇっ!!」
「え、ちょっ、じょうだ」
彼女を持ち上げ背中に乗せると、俺は再び川沿いの道を走り出した。パニックになっている人々を掻き分けるように。
「どけどけどけぇぇぇぇぇっ!!世界を救うためにどいてくれぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
俺は全速力で駆け出した。人々を押し除けながら、何処へとも知れない場所へと駆けていった。背中がいつの間にか軽くなった気がするが気にしない。とにかく走り続けた。地平線の彼方まで–––。
「没よ。」
声子の言葉で世界は暗転した。気付くとそこには背中に居たはずの声子がいた。彼女の頭には大きなコブができていた。
「な、なんだここはァッ!!そしてッッッ!!どうしたんだッッッ!!そのコブはァァァァッ!!」
「アンタが振り落としたんでしょうが!!お陰で頭が痛いのなんの!!アンタの叫声も一因だけどね!!」
声子が怒鳴った。音量は俺と彼女で然程変わらない気もする。
それだけでは気が済まなかったのか、彼女は天に向かって更に叫んだ。
「おい作者ァッ!!熱血漢ってのはただ叫ぶだけじゃないわよ!!これじゃあただのバカじゃないの!!全国の熱血キャラに謝りなさい!!」
『皆様、申し訳ございませんでした。…いや、しかしながら、熱血キャラにしたはずなのに、ただただ叫び続けるだけの明太郎にも原因があると考えられる。』
作者は俺に責任転嫁してきた。俺はなんか叫びたくて仕方なくなっただけなので、人のせいにしないで頂きたいところである。
「もうさ、変にキャラを作る必要ないでしょ。」
声子の提案に、作者も同調した。
『そんな気がしてきた。元々のキャラのままでも、こういうメタ視点での弄られキャラというか、作者の意向に沿って性格が変更されるキャラ、という事で成立出来るような気がしている。』
「ちょっと待てぇッ!!それでは俺はただの実験台みたいなものではないかッ!?」
「ここ三回くらいそんな感じじゃない。今更手遅れよ。」
『言われてみればそうである。そもそも、口調を変える事でキャラを決めるというのが少々安易過ぎたきらいがある。勿論そういう手法もあるが、無理にやるようなものでもない。平々凡々な主人公を目指すであれば特にそうだ。』
作者は一人で反省会を始めてしまっている。
「そもそもアンタが熱血を勘違いしすぎてるってのも多分にあるけどね。」
『返す言葉もない。全くもってその通りである。それも踏まえるとやはり書き直しだ。』
「もうッ!!次からはッ!!普通にしてくれていいからなッッッ!!」
俺が叫ぶと、天の声も声子もどこか嫌そうな顔や声を上げた。
『わかった。普通にする。そういう事で宜しく頼む。』
「ところで一つ気になってるんだけど。」
突然、声子が切り出した。
『なんだろうか。』
「街の構造とかって決めてるの?」
『…』
「ちょっと待って何その沈黙。まさか…」
『そこは…その、柔軟に対応してくれ。頼むぞ。』
おいちょっと待て、いい加減にも程が
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