Rev.2

 川沿いには人が溢れていた。どこに逃げれば良いかと慌てふためき泣き叫ぶ者、ここぞとばかりに簒奪に走る者、諦めて地に座し天を仰ぐ者、最後だからと川に入って泳ぐ者。様々な人が各々の終末を迎えんとしていた。

 俺と声子はそんな人混みを掻き分けながら、資料館へと走っていた。

「Well, do you really think it will work?(なぁ、本当に、何とかなると思ってるのか?)」

 俺は前方を駆ける声子に問いかけた。彼女は立ち止まり、困惑の色を浮かべた顔で振り返った。

「…あ、え?」

 理由は良く分からないが、どう返せば良いか分からないか分からないように見えた。

「What's wrong?(どうした?)」

「…え、えっと、…これ続けないとダメなのかしら…?と言うか今なんて言ったの…?」

 彼女は困り果てた様子で、頭を抱えながら、囁くように言葉を紡ぎ出した。

「ど、どっちでもいい、いいじゃない、の。楽しく…その、楽しく…なって…きた…じゃない。」

 その言葉は、何かを気にしているのか、途切れ途切れになっていた。

「ほ、炎の神が降り立つ。まさか本当に伝説を目の当たりにするとは思ってなかったわ。私の、予想が、あ、あた…」

 疲れているのだろうか。思い返すと、彼女の姿を見かけるのは、教室以外は図書室ばかりであった。体力があるようには見えない。

 彼女を初めてまともに見たのも図書室だった。オカルト雑誌や都市伝説の本を積み上げていたのと、今時珍しいグルグル眼鏡だったので記憶に残っている。こうして話す機会も、今まで殆ど無かった。こうして二人で行動するのも意外と言えば意外であった。

「I do not know how far it has hit.(どこまで当たってるか分からないけどな。) I still don't believe I can meet God.(まだ俺は神に会えるとは思っていない。) Well, let's go.(まぁいい、行こう。) Let's quickly check if your thoughts are correct.(お前の予想とやらが正しいかさっさと確かめようじゃないか。)」

 そう言って俺は再び駆け出した。だが彼女の横を通り過ぎて足を止めた。彼女はその場に立ち続けていたからだ。彼女は俯いて肩をわなわなと震わせていた。

「What's wrong?(どうした?)」

 様子がおかしい彼女を心配して、俺は声を掛けた。その問いに対し、彼女は–––



「止めろ止めろ止めろ止めろォォォォッ!!」

 叫んだ。

「What's wrong?(どうした?)」

「ワッツワロング?じゃないわよ!!幾ら何でも路線変更しすぎよ!!」

 今までより遥かに大きな声が叫び続ける彼女に少し驚きながら、俺は言った。

「I don't think so.(そうかな?) I guess this is pretty good.(これ結構いいと思うんだが。)」

「うるせぇ黙れ!!」

 火に油を注いでしまった。声子の語気が荒くなった。

「大体アンタ、外見まで変えてんじゃ無いわよ!!いきなり金髪の外人風になったからビックリしたわよ!!一人称視点でバレないからって無茶苦茶しすぎよ!!」

「I don't want to be told.(俺に言われても困る。)」

 そう言うと、天から声が響いてきた。作者の声だ。

『うーむ、これだと声子に対して良い反応が出来ると思ったんだが。』

「どっちかってーとアタシのリアクションの方が酷くなるわ!!なんでこんな事にしたのよ!!」

『口調については、それだけである程度キャラが立つだろうと思ったためだ。外見については、ほら、一人称で語らない事で、後々叙述トリックに出来るんじゃ無いかと思ったんだ。』

「出来るわけないでしょうがこの歴史的馬鹿者が!!全国の叙述クリック愛好家と作家に土下座して謝れ!!この路線は無し!!OUT!!却下!!」

 声子が天に向かって吠える。作者は少しだけ残念そうに言った。

『まぁ、うむ、そうだな…。実際のところ、翻訳するのも結構面倒なので、あまりやりたくは無い。戻す事にする。』

「Huh? For me,I'm glad I can use English.(えー、俺としては、俺が英語を使えるのは嬉しいんだが。)」

「アタシが困るからダメよ!!ダメ!!」

「Then what is good.(じゃあどんなのがいいんだ)」

「少なくとも言語は同じにして頂戴。」

『じゃあ声子も英語に…いや待て、止めるから天を睨むな。』

 声子の顔は般若の如く怒りに満ち満ちていた。

『もう少し熱血漢みたいにしてみよう。すまんがまたやり直す。』

 彼がそう言うと、俺の視界は再び真っ白になっていった。

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