第二章 x=2:きゃらのせっていをきめよう

Rev.1

 川沿いには人が溢れていた。どこに逃げれば良いかと慌てふためき泣き叫ぶ者、ここぞとばかりに簒奪に走る者、諦めて地に座し天を仰ぐ者、最後だからと川に入って泳ぐ者。様々な人が各々の終末を迎えんとしていた。

 俺と声子はそんな人混みを掻き分けながら、資料館へと走っていた。

「なぁ、本当に、何とかなると思ってるのか?」

 俺は前方を駆ける声子に問いかけた。彼女は振り向く事なく答えた。

「この際、どっちでもいいわよ!いいじゃない、楽しくなってきたじゃないの!!炎の神が降り立つ!!まさか本当に伝説を目の当たりにするとは思ってなかったわ!!私の、予想が、あた、へぇ、へぇ。」

 息切れである。そういえば彼女の姿を見かけるのは、教室以外は図書室ばかりであった。体力があるようにも見えなかった。

 彼女を初めてまともに見たのも図書室だった。オカルト雑誌や都市伝説の本を積み上げていたのと、今時珍しいグルグル眼鏡だったので記憶に残っている。こうして話す機会も、ある時点まで殆ど無かった。


 彼女と話すようになったのは、教室で彼女がUFOを見たと言い出した時に口論になった時からである。俺はUFOなど信じていなかった。UFOだけではない。大凡の都市伝説は偽りであり、もし実在するとしても、かつての神話のように、何らかの自然現象を別の目線で見た結果であると考えていた。だからそれを指摘した。すると大口論になり、以来、図書室で本を借りてはその内容について議論する事が続いていた。周りからは「またイチャイチャしてる」などと揶揄される事があったが、俺はそんな感情を抱いた事はない。俺はただ自論を通したいだけであり、彼女も同様である。

 予想云々と言っていたのは、この手の伝承・伝説についてである。俺は、今回のような非日常的な事象では無く、もっと日常に根差した事が土台となって形成されたものであると指摘していた。それに対し、彼女は「これこそが正しく天変地異がかつて到来した事を意味しているのだ」と言って聞かなかった。その時の事を指しているのだろう。これに関しては彼女の言い分が正しかったと認めざるを得ないだろうか。

 いや。

 俺は考え込み、歩みを止めた。

「ぜぇ、へぇ、ど、どうしたのよ。」

 彼女も合わせて足を止めた。膝に手をやり息を整えている。

「・・・いや、それは違うだろう。」

「は?」

 俺は反論した。

「まだその槍とやらがあの隕石に通用するか決まったわけではないのだから、それを確認する前に予想が的中したと述べるのは余りにも性急では無いだろうか。そもそもお前の予想はもっと具体的な人型の化身の襲来だっただろう。どちらかと言えば俺の予想である、何かを土台として形成された説の方が正しいと言えないだろうか。」

「出た出た出た出た明太郎の屁理屈が。いい?結果として天変地異が起きているのは見えてるでしょう?つまり私の説が正しいに決まってるじゃないの。」

「しかし巨大な隕石が近づいているわりには地球に対する影響が少ない。今起きているのも人々が衝突を恐れてパニックに陥っているだけに過ぎない。つまるところ、まだ天変地異が起きていないと言えないだろうか。」

「無茶苦茶言ってるわねアンタ。いい?百万歩譲ってそれで良しとしてもよ。」

「良し。」

「それは認めたって意味じゃないわよこの揚げ足取り野郎が!!いい!?実際には今後起きるとえらーーーい観測所とかが見通したからこそニュースになってるんでしょ!?地球滅亡が天変地異じゃないとでも!?」

「いやまあそれはそうかもしれんが。しかしだな、」



「止めよう。」

 俺は反論の言葉を飲み込み言った。

「今こんな事言い争ってる場合か?あと三時間しか無いのに。」

「そうね。なんかこう、ただのクソ野郎になってる気がするわ。」

 そういう性格に設定されているせいか、クソ野郎と言われると反論したくなるが、ここはグッと堪えた。すると天から作者の声が聞こえてきた。

『うむ。正直言って、ただ文字数稼いでいるだけのような気もしてきたので、この路線は避けたいというのが本音である。明太郎には、読者が感情移入出来る人物像を設定したい。今のままでは声子の述べた通り、ただの屁理屈野郎である。』

 散々な言われようである。俺は好きでこんな性格になったわけではないぞ、と言ったが無視された。あんまりである。

『声子が話をリードする形になっているので、それに対して良い反応を返すキャラにしたいと思う。』

 その言葉に俺は顔を顰めた。俺は確かに気にして無いとはいったが、だからといって今の状況は玩具にされているようで少々承服し難い。

『我慢してくれ。あんまり突飛なキャラにはしない…と思う。』

 一瞬の間があった。なんだ今の間は。不安になりながらも俺は、嗚呼、次は上手くいきますように、と天に祈った。

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