再び作業部屋にて
うむ、多少無理はあるかもしれないが、何とか当面の目的を設定出来た。
『私がオカルト好きとか初めて聞いたんだけど。』
声子の声が聞こえてくる。仕方なかったのだ。古代の伝説をそう簡単に信じるような人間は中々居ない。キャラ立てのためにも、そういう設定にした方がやりやすかった。そういうわけで理解して欲しい。そう思考すると、声子は呆れたような声で言った。
『まぁ、分かったわよ。貴方がそういう風に書いちゃったんだからどうしようもないしね。なんかもう昔から好きだった気がするし。・・・その、移り変わりみたいなのが、少し気持ち悪いけれど。』
そう聞くと申し訳無さもある。私の筆一つで人の性格を変えられるのだ。その当人に記憶があるなら、自分という存在が書き換えられるような感覚なのではないだろうか。心地悪いのは理解出来る。
『ま、いいわ。所詮小説の登場人物なわけだし、割り切ることにするわよ。』
心が広くて助かる。ただ、どこまで私がそういう設定にしたのか分からなくなってきて、自分自身が困惑し始めているが。
『それは自分の中で何とかして頂戴。ところで、このまま私達は資料館に行けばいいのかしら。』
私は肯定した。その通りだ。そこにある情報を元に槍を探して、それを打ち上げる方法を探して、と話が展開していく予定だ。
『え、槍自体置いておいてよ。』
それでは、その槍を回収して、打ち上げて終わり、くらいのこぢんまりとした話になってしまうだろう。私はもっと広い、少年少女の冒険活劇や葛藤を描きたいのだ。
『三時間、当初一時間にどれだけ詰め込むつもりなのよ。』
聞こえないフリをした。
物語に思いを込める。これは執筆者の特権だ。私はこの物語で、普通の人間であっても困難を乗り越えられる事、そしてその大切さを語りたいのだ。
『今時流行らないわよ。』
夢も希望も無い話をするな。私は虚空に向かって心の中で叫んだ。確かに最近は能力持ちの主人公が多いかもしれない。不正改変で能力を上げてみたいな話が多い気もする。だが艱難辛苦を乗り越える話も求められている、はずだ。おそらく。
『あー、少しいいか?』
別の声、男の声が割り込んできた。四壁明太郎だろう。彼にテレパシーを与えたつもりは無かったが、こう二人だけでやり取りしていると彼が蚊帳の外になってしまう。これは仕方ない事だろう。
『あのさ、よくよく考えてみたんだけど、俺のキャラあんまり立ってなくない?』
まさか登場人物本人がそれを言うか、という内容であった。私は頭を抱えた。言っている事はご尤もなのだが、まさか本人に薄々感じていた事を指摘されるとは、という困惑からであった。
「あー、そうだなぁ。・・・そうだなぁ。」
私は考え込んだ。普通の人間として描くつもりしか無かったため、確かにそれ以外の部分の詰めが甘かった感は否めない。何か彼にも、主人公という事以外の何かを与えねばならないだろう。だがそれを口に出来なかった。というのも、本人に「どんなキャラがいい?」等と聞いて良いものか、悩んでしまったからだ。
『俺としては気にして無いからいいよ。ともかく、どんなキャラなのかハッキリさせてくれ。そうすりゃ段々馴染んでくだろ。』
そんなものであろうか。だが確かにそんなものなのかもしれない。先程の声子も最初からオカルト好きだったような気がしてきたとも言っていた。ひとまず本人が求めている事であるし、その意見を尊重しよう。
さて、明太郎の設定について考え出してみたが、これまたパッと閃くようなものは無かった。というのも、先刻述べた通り、私は普通の人間が困難を乗り越える話にしたいと思っていたからだ。だが普通の人間というのは具体的にどんなキャラクターなのだろうか。
『むしろ普通の人間ってのを止めて、もう少し尖ったキャラにしたらどう?』
『えっ。』
声子の提案に、明太郎は驚いた声を上げた。無理もない。だがふむ、検討には値すると思われた。
『えっ。』
いっそ声子も相当なオカルトマニアという事にして、より色濃いキャラにしてみる事にしようか。
『えっ。』
今度は声子も声を上げた。だがそれは無視した。私の中で幾つものアイデアが浮かんで来たからだ。
例えば明太郎を理屈っぽいキャラにしてみる。とにかくケチをつけまくる。声子との対比になるし、掛け合いもより多彩になるだろう。或いは熱血系、或いはやれやれ系。色々キャラクターの個性というものはある。普通に拘らず、色々な味付けを試してみるもの良いかもしれない。その方が全体的な話の進み方も早くなる場合もある。
『俺はふりかけか何か。』
そうと決まったらやるしかない。私は今までの描写に矛盾しないような性格を思案しながら、執筆作業に取り掛かる事にした。
『ちょっと待て、俺としてはそこまで濃いキャラは求めてないからな?』
私は頷いた。流石にそこまでは弁えている。突飛な事はしないが、幾つか試してみるだけだ。
『その度に私たちはループするんだけどね・・・。』
最後はちゃんとハッピーエンドで終わらせるからまぁ待ってくれ。そう二人に言い聞かせて、私は再び打鍵を開始した。
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